2007年になって陽の目を見たハルモニアのライブ・アルバム、「ライブ1974」です。この頃、ハルモニアの三人は頻繁にライブを行っていました。普通のロック・バンドとはまるで異なるユニットですから意外な気もしますけれども、彼らにとっては日常風景でした。

 とはいえ、商業的には悲惨な状況にあったそうで、当時のヒップな若者が集まるクラブなどでもせいぜい50人程度しか集客できなかったといいます。時には300キロもドライブしてたどり着いたディスコで3人しかいない観客の前で演奏したこともあったそうです。

 本作品には1974年3月23日にドイツのグリーセンにあるペニー・ステーションで開催されたライヴを収録しています。その名の通り、駅舎を改造した会場で、この日の観客は30人から50人程度だったということです。その少ない観客に向けた全8曲で1時間弱の演奏です。

 この頃は録音テープもとても高価でしたから、ライブを収録してもほとんどはすぐに上書きしてしまったそうですが、この日の演奏は三人ともに傑作だと感じていたため、上書きせずに残され、ミヒャエル・ローターのライブラリに保管されていました。時を待っていたのですね。

 もっとも、ローターさんは、この夜、その後四半世紀をともに過ごすことになるパートナーと出会ったそうですから、そっちの意味で記憶に残るコンサートでもありました。やはり仕事が充実すると私生活でもいいことが起こるのでしょう。ほのぼのしたエピソードです。

 ライブは3人のうちの誰かがパーカッションなりピアノのパターンなどで即興的にアイデアを提示し、それに残りの二人が乗っかっていく形で行われたそうです。事前に作曲された曲などはなく、すべてがその場で即興で行われていきました。よほど息が合っています。

 曲は大たいフェイドアウトして終わるのですが、止め方が分からなかったために、時には本編の演奏よりも長くフェイドアウトが続くという訳の分からない状況になっていたそうです。観客は始終おしゃべりしており、フェイドアウトになると話し声が少し聴こえてきます。

 それに録音状態はけして素晴らしくはありません。いかにもローファイなテープ録音で、くぐもったようなサウンドになっています。しかし、そうした点がすべてご愛嬌に思えるほど、本作品は充実しています。ハルモニア初期のライブで、すでに真骨頂が表れています。

 ミニマルな反復されるパルスとオルガンやギターのさまざまなパターンが組み合わさって、気持ちがよいことこの上ありません。終わり方が分からなかったという言葉に激しく首肯する演奏です。これをステージ上で即興でやっていたというのですから凄いことです。

 ライブを行った当時はさほど注目されなかったハルモニアですが、やがて時代は彼らに追いつき、クラウトロック勢はどんどん高く評価されるようになっていきます。そうして本作品の公式発表につながるわけですが、これを機になんとハルモニアは再結成しています。

 2007年11月にはベルリンで実に30年ぶりのライブを行うと、その後もしばらくの間ライブを各国で続けています。若い頃にやっていた音楽が時を経て高く評価されるというのはミュージシャン冥利につきるでしょうね。その喜びが伝わってくる再結成でした。

Live 1974 / Harmonia (2007 Grönland Records)

参照:"Future Days" David Stubbs (Faber&Faber)



Tracks:
01. Schaumburg
02. Veteranissimo
03. Arabesque
04. Holta-Polta
05. Ueber Ottennstein

Personnel:
Michael Rother : guitar, electronic percussion, piano, organ
Hans-Joachim Roedelius : electric organ, piano
Dieter Moebius : synthesizer, electronic percussion