「摩訶不思議」とはとても素敵な邦題です。当時の洋楽担当者の心意気が伝わってくるようです。意外にクラウトロック勢は日本盤が発表されていたことも分かります。当時はジャーマン・プログレと呼ばれていました。その中でもハルモニアの作品は確かに「摩訶不思議」です。

 Cのクラスターの二人は田舎に引っ込むこととし、ルール地方のフォルストに住居を兼ねたプライベート・スタジオを格安で手に入れます。ここにノイ!のミヒャエル・ローターが最初の客としてやってくると、彼もここを気に入り、しばらく住みこむことになりました。

 ハルモニアはこの三人によるユニットです。何だかお洒落なエピソードっぽいですが、フォルストのスタジオはもともとはトイレも電気もない廃屋のようなところだったそうで、そこを改造して何とか使えるようにしたのだそうです。DIY精神のなせる業です。

 ディーター・メビウスは初めて見た瞬間に帰りたくなったそうですが、ハンス・ヨアキム・ローデリウスの方はベルリン生まれながら田舎での貧乏暮らしの経験も長かったことから嬉々として改造に励んだということです。人間何が吉とでるか分かりません。

 このアルバムはそのフォルストでの三人によるセッションが大半を占めています。見開きジャケットを開くとそこにスタジオの光景が写っています。がらんとしたお世辞にも綺麗とはいえない部屋に機材やソファが置かれただけの殺風景なスタジオです。

 本作品にはシンセサイザーも小規模ながら導入されましたし、三人ともエレクトリック・パーカッションを使用しているとクレジットされています。簡単なリズム・ボックスのようです。ローターが持ち込んだごく簡単なシーケンサーも使われているそうです。

 そんなセッションから誕生したサウンドはすべてインストゥルメンタルの電子音楽ですけれども、これまでのクラスターの作品とは明らかにリズムの使い方が違っています。ローターの参加はノイ!風の軽快なモータリック・ビートまでもたらしたのでした。

 ローターの特徴的なへろへろしたギターのサウンドも目新しいです。細かく刻むミニマルなパルスのようなビートと組み合わせてポップな表情すら漂います。これは日和ったわけではなく、メビウスによれば「次第にハーモニーや音楽の構造を学んでいった」結果なのでした。

 このサウンドはマルチ・トラックのレコーダーではなく、普通のレコーダー三台を使ってピンポンのように録音されたのだそうです。三台の写真もライナーに添えられています。今から考えると凄い作業です。三人の楽し気な作業風景が目に浮かびます。

 本作品にはライブ音源も含まれています。ハルモニアはライブも頻繁にこなしていました。基本的にはアナログかつマニュアルな演奏なんですね。ある意味ではバンド・サウンドです。ノイ!よりもライブの頻度が高かったようですから驚きます。

 ジャケットは台所洗剤のパッケージを描いたポップなものです。最高に意味がありません。サウンドの方も意味性を徹底的に排除しているようで、そこがハルモニアの最大の魅力です。このサウンドはいつまでも古くなることはないでしょう。時のテストに耐え輝いています。

Musik von Harmonia / Harmonia (1974 Brain)

参照:"Future Days" David Stubbs (Faber&Faber)

*2013年4月16日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Watussi ヴァッシー
02. Sehr Kosmisch 宇宙の調和
03. Sonnenschein 陽光を浴びて
04. Dino
05. Ohrwurm
06. Ahoi!
07. Veterano
08. Hausmusik

Personnel:
Hans-Joachim Roedelius : organ, piano, guitar, electric percussion
Michael Rother : guitar, piano, organ, electric percussion
Dieter Moebius : synthesizer, guitar, electric percussion