成長して大人になったあいみょん(笑)による2年ぶりのアルバム「瞳へ落ちるよレコード」です。いつもながら絶妙に疑問符を光らせる不思議なタイトルです。馴染みのある言葉だけでできているところがいいです。耳にやさしい心地よい疑問符です。

 この2年間にあいみょんはコンスタントにシングル曲6曲を発表しています。ドラマの主題歌にもなっていますし、昔と違って最新ヒットばかり歌うのではなくなった歌番組にもコンスタントに出演していました。ついでにタモリ倶楽部にも出演しています。

 要するにコンスタントに活動を続けてきているので、アルバムが2年ぶりだと聞くとちょっと驚いてしまいます。それほど、この2年間、世間にはあいみょんが満ち溢れていたんです。カラオケではあいかわらず「マリー・ゴールド」が流行っていました。

 このアルバムはこれまでの活動の延長線上にあります。あいみょんはシングル曲を実に丁寧に愛おしむように作っており、それがある程度たまったところで、新曲も加えてアルバムにする、そんな制作姿勢なのでしょう。コンセプト・アルバムなどとは対極にあります。

 シングルは時期もばらばらですし、それぞれが独立した作品として充実していますから、アルバムとしてのまとまりを醸し出すのは難しそうにも思いますけれども、そこはアーティストとしてのコンセプチュアル・コンティニュイティーに満ち溢れており、心配には及びません。

 制作陣は前作、前々作と同様に田中ユウスケ、トオミヨウ、會田茂一、関口シンゴの四人のサウンド・プロデューサーに加えて、メジャー・デビュー作に登場していた奇妙礼太郎系のSundayカミデも1曲担当しています。安定のあいみょんチームです。

 ビジュアルはもちろんとんだ林蘭で、こちらもグラビアからは程遠い面白い写真が満載のいつものあいみょんです。何がどこまでCGなのか皆目分からないところも面白い。とんだ林蘭は色彩のセンスのみならずアイテムの選び方も常に想定の少し先をいっています。

 楽曲は今回もとても充実しています。それに曲ごとにアレンジが工夫されていて聴きどころ満載です。タイトルにレコードが入っているだけに、レトロなアレンジも散見されます。「スーパーガール」などは、初期のモータウンのようであって、なおかつ椎名林檎的でもあります。

 全体がそうなのかと思うと、「強くなっちゃったんだブルー」などはいわばヒップホップ仕様ですし、「桜が降る夜は」はまるでギターポップです。「ペルソナの記憶」はラップが出てくるどこか緩めの曲ですし、次の「神秘の領域へ」はとんつくリズムのさらに緩い曲とさまざま。

 きっちり見ていた「婚姻届けに判を捺しただけですが」はもう昨年のドラマですが、その主題歌「ハート」がここで登場するとこれがまた新鮮に思えます。アレンジが一曲一曲楽しいだけではなくて、こうしてアルバムの並びまで考えられているので全13曲があっというまです。

 これまで同様、弾き語りで十分に成立する曲ばかりであると思うのですが、本作品ではその長所を最大限に生かしてアレンジでより大胆に冒険するようになっており、アルバムがさらに充実しています。さすがはあいみょん。しみじみといいアルバムだなあと思います。
 
Falling Into Your Eyes Record / Aimyong (2022 ワーナー)



Tracks:
01. 双葉
02. スーパーガール
03. 姿
04. 初恋が泣いている
05. 君のこゝろ
06. 3636
07. 強くなっちゃったんだ、ブルー
08. 桜が降る夜は
09. ペルソナの記憶
10. 神秘の領域へ
11. ハート
12. インタビュー
13. 愛を知るまでは

Personnel:
あいみょん : vocal, guitar
***
八橋義幸、會田茂一、石成正人、真壁陽平、アツムワンダフル、西田修大、名越由起夫 : guitar
高桑圭、玉木正太郎、須永和広、須藤優、高倉壮一郎、村田シゲ : bass
坂田学、澤村一平、神谷洵平、伊吹史裕、ビートさとし、小宮山純平 : drums
朝倉真司 : percussion
武嶋聡 : soprano sax
山田丈造 : trumpet
高倉壮一郎、KOHD : programming
室谷光一郎ストリングス
田中ユウスケ、トオミヨウ、會田茂一、Sundayカミデ、関口シンゴ : sound production