カリスマ・レコードのオーナー、トニー・ストラットン・スミスを感激で涙させたというジェネシスのキャリアを確立した名盤が4枚目のアルバムとなる本作品「フォックストロット」です。前作から約1年、本格的なツアーを経て完成させたアルバムです。

 スミスでなくても、ピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスのサウンドと言われると私も本作品を思い浮かべます。とりわけ、B面の大半を占める22分にわたる大曲「サパーズ・レディ」のジェネシス史におけるインパクトは大きいものがあります。

 前作からはまずプロデューサーがジョン・アンソニーからキャラバンの名作「グレイとピンクの地」を手がけたデイヴ・ヒッチコックに変わりました。アンソニーもカリスマの仲間たちを手掛けていますが、ヒッチコックの方がよりプログレ的な志向が強いです。

 メンバーは前作と同じで、輝ける五人組です。メンバーが定まってから本格的なツアーを経た2枚目ですから、バンドの結束はより高まっていたでしょうし、メンバーそれぞれが思う存分その個性を発揮しだしました。自信に満ちあふれている様子です。

 フォックストロットは言うまでもなくダンスのステップの名前ですけれども、ジェネシスらしくキツネ、さらには英国貴族の遊びであるキツネ狩りに発想を飛ばしたジャケットになりました。この写真ではよく分かりませんけれども、開くとキツネ狩りの貴族たちが表れます。

 前作に引き続きポール・ホワイトヘッドの手になるジャケットで、いかにも英国的ではあるのですが、いかんせんこの半分だけではややインパクトに欠けます。メンバーの間でも評判が悪く、結局彼が手掛けるジェネシス・ジャケットはこれが最後になりました。

 そんなことにはかかわりなく、サウンドは充実しています。一曲目の「ワッチャー・オブ・ザ・スカイ」はキング・クリムゾンから譲り受けたというメロトロンで始まります。見事なプログレ宣言といえるでしょう。タイトルは19世紀の詩人ジョン・キーツのソネットからとられています。

 それを皮切りにガブリエルのボーカルはより表情豊かになり、演劇的になってきていますし、スティーヴ・ハケットのギターはリリカルな12弦から荒々しいエレキギターまで多彩ですし、トニー・バンクスのオルガンやメロトロンもこれまで以上にプログレしています。

 それを支えるマイク・ラザフォードとフィル・コリンズのリズム隊はしっかりとタイトです。こうした壮大なサウンドはリズム・セクションがしっかりしていないと茫洋としてまとまりが失せるものですが、この二人はさすがにびしっと背骨を通しています。

 そして最後の「サパーズ・レディ」です。7つのパートに分かれる組曲は聖書を題材にした壮大な物語を、奥行きのあるサウンドと、一人舞台に立っているかのようなガブリエルのボーカルが複雑な構成でめくるめく展開を見せていく、まさにザ・プログレといえる大曲です。

 この作品は英国でもチャート入りしましたが、イタリアではチャート1位に輝いています。何の不思議もありません。ジェネシスのサウンドは英国的でありながら、ヨーロッパ大陸のプログレと大変親和性が高いです。ジェネシス初期の大傑作です。

Foxtrot / Genesis (1972 Charisma)



Tracks:
01. Watcher Of The Skies
02. Time Table
03. Get 'Em Out By Friday
04. Can-Utility And The Coastliners
05. Horizons
06. Supper's Ready
a) Lover's Leap
b) The Guaranteed Eternal Sanctuary Man
c) Ikhnaton And Itsacon And Their Band Of Merry Men
d) How Dare I Be So Beautiful?
e) Willow Farm
f) Apocalypse In 9/8
g) As Sure As Eggs Is Eggs

Personnel:
Tony Banks : organ, mellotron, piano, guitar, chorus
Steve Hackett : guitar
Phil Collins : drums, chorus, percussion
Peter Gabriel : vocal, flute, oboe, percussion
Mike Rutherford : bass, cello, guitar, chorus