ジェネシスの実質的なデビュー作といわれる2枚目のアルバム「侵入」です。なお、現在は邦題も「トレスパス」とされ、各楽曲にも邦題がつけられなくなりましたが、私はジェネシスのアルバムに関してはこの邦題も込みで親しんでいるので、ないと大変さみしいです。

 さて、デビュー作がまるでヒットしなかったジェネシスは、それまでの二兎を追う状況を反省し、プロの音楽家としてやっていく決意を固めました。デビュー作の当時は若さゆえの自信過剰状態にあったということなのでしょう。それでも辞めなかったところが凄いですね。

 決意を新たにしたジェネシスはポップを主張するジョナサン・キングの元を離れ、コテージにこもって入念にリハーサルを重ねていきます。また、メンバー募集広告を音楽誌に掲載して、ジョン・シルヴァーに代わる新たなドラマー、ジョン・メイヒューを加えます。

 リハーサルを繰り返して手ごたえを感じたジェネシスは、1969年11月にロンドンでプロとして念願のステージ・デビューを果たしました。その後はモット・ザ・フープルとの共演や、ロンドンの有名なジャズ・クラブ、ロニー・スコッツでの6週間公演などを着々とこなしていきます。

 そして、ロニー・スコッツでの演奏を見た新興カリスマ・レーベルのプロデューサー、ジョン・アンソニーの目にとまり、ジェネシスはカリスマとの長期契約を交わすことになりました。実力のなせる技とはいえ、レコード・ディールに関する限り、ジェネシスはかなりラッキーです。

 本作品はカリスマからの第一弾となるアルバムで、1970年10月に発表されました。ステージ・デビューから1年足らず、大したものです。プロデュースはもちろんジョン・アンソニーで、レコーディングに関しては素人同然のジェネシスですから、彼の貢献は大きいです。

 もともとキングの路線には納得がいっていなかったのでしょう。本作品はデビュー作とはまるで異なるプログレッシブ・ロック仕様となっています。曲は全部でわずかに6曲、比較的長めの曲ばかりですし、あからさまなポップ仕様の曲は見当たりません。

 ジャケットもまるで違います。カリスマはタイム・アウト誌のアート・ディレクターだったポール・ホワイトヘッドを本作品のジャケットを担当するために雇い入れ、彼によっていかにもヨーロッパ仕様のジャケットが制作されました。これがジェネシスのイメージを決定づけます。

 サウンドはアンソニー・フィリップスのギターとトニー・バンクスのオルガンを軸に展開しており、前作との継続性はもちろんあるのですが、曲の組み立ては複雑になり、プログレを地で行くサウンドになっています。ピーター・ガブリエルのボーカルもより演劇的になりました。

 アルバムの白眉は最後の「ザ・ナイフ」でしょう。ジャケットにもナイフによる切れ目が描かれています。主要メンバー四人の共作となる力強い曲で、ライブでもアンコールの定番となっていました。プログレ・ジェネシスの誕生を告げるアルバムの象徴的な曲です。

 本作品は英国ではヒットしたとはいえませんが、大陸で受け入れられ、特にベルギーでは1位になりました。そのことがジェネシスにバンドを続けていく自信を与えました。確かにこのスタイルのプログレはヨーロッパ大陸で受けそうです。面白いことです。

Tresspass / Genesis (1970 Charisma)



Tracks:
01. Looking For Someone 何かを求めて
02. White Mountain 白い山
03. Visions Of Angels 天使の目
04. Stagnation よどみ
05. Dusk たそがれ
06. The Knife

Personnel:
Peter Gabriel : vocal, flute, accordion, tambourine, bass drum
Anthony Phillips : guitar, dulcimer, vocal
Tony Banks : horgan, piano, mellotron, guitar, vocal
Mike Rutherford : guitar, bass, cello, vocal
John Mayhew : drums, percussion, vocal