ルー・リードの3年ぶりのアルバム「ザ・レイヴン」はやや特殊な作品です。というのも本作品はエドガー・アラン・ポーの作品をモチーフにしたオペラ「POEtry」を元にしているからです。オペラは「浜辺のアインシュタイン」でお馴染みのロバート・ウィルソンとの共作です。

 オペラ自体は2000年に公開されており、本作品はそのサントラというわけではありません。あくまでオペラのための曲も含めて新たに録音した作品のようです。作品は2枚組限定盤もありますが、ここでご紹介するのは通常の1枚作品です。

 演奏しているのは、ルーとマイク・ラスケ、フェルナンド・ソーンダース、トニー・スミスの前作と同じ四人組ロック・バンドに、チェロのジェイン・スカルパントーニ、ポール・シャピロやスティーヴ・バーンスタインなどのニューヨークの管楽器奏者などが加わります。

 プロデュースは前作に引き続きハル・ウィルナーです。曲はすべてルーが書いていますけれども、ウィルナーのプロデュースということで前作以上にホーンやストリングスが活躍しており、ロック色はさらに薄まっています。オペラなりミュージカルの香りが濃厚です。

 さらに、本作品には数多くのボーカリストがゲストで参加しています。そして、ポーの作品を題材にしているだけに、そのまま朗読するパートなどもあり、そのために数人の俳優さんもゲスト参加しています。ウィルナーの一連のトリビュート作品の一つであるかのようです。

 参加しているボーカリストが豪華です。真っ先に名前を挙げなければいけないのは盟友デヴィッド・ボウイでしょう。ボウイが参加するとどことく「サテライト・オブ・ラヴ」を思い出してしまいます。そして、ルーの運命の人、ローリー・アンダーソンも忘れてはいけません。

 若手からはアントニー・アンド・ザジョンソンズを率いたアノーニ。アノーニをウィルナーに紹介されたルーは即座に気に入り、本作品への参加とワールド・ツアーでのコーラス隊に抜擢しています。そしてゴスペルの大ベテラン、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマ。

 さらにカナダのシンガーソングライター姉妹のケイト&アンナ・マクギャリグル。朗読はウィレム・デフォー、スティーヴ・ブシェミ、エリザベス・アシュリー、アマンダ・プラマーと渋い俳優ばかりです。中でもデフォーはタイトルにもなったポーの代表作「大鴉」担当です。

 さらにオーネット・コールマンが一曲参加しており、まるでルーとデュエットするようにアルト・サックスを吹きまくっています。こうなってくるとますます企画盤っぽくなってきます。また、ルーの旧作「ザ・ベッド」のセルフ・カバーとアノーニによる「パーフェクト・デイ」が出てきます。

 なんというかサービス精神が横溢しています。ただし、詩人ルー・リードとして、アメリカの大詩人エドガー・アラン・ポーと真っ向から勝負を挑むわけですから、緊張感もあったでしょう。その点を揶揄するかのような評論もありましたからなおさらです。

 本作品が単独スタジオ・アルバムとしては最後のアルバムになってしまいました。ウィルナーとウィルソンの助けを得て、ルーの最後の作品は見事なミュージカル作品になったといえます。ロックンローラーとは程遠くなりましたが、これはこれで到達点です。

The Raven / Lou Reed (2003 Sire)



Tracks:
01. Overture
02. Edgar Allan Poe
03. Call on Me
04. The Valley Of Unrest
05. A Thousand Depaerted Friends
06. Change
07. The Bed
08. Perfect Day
09. The Raven
10. Balloon
11. Broadway Song
12. Blind Rage
13. Burning Embers
14. Vanishing Act
15. Guilty
16. I Wanna Know (The Pit And The Pendulum)
17. Science Of The Mind
18. Hop Frog
19. Tripitena's Speech
20. Who Am I? (Tripitena's Song)
21. Guardian Angel

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
***
Mike Rathke : guitar
Fernando Saunders : bass, guitar, chorus
Tony "Thunder" Smith : drums
Friedrich Paravicini : piano, keyboards
Jane Scarpantoni : cello, string arrangement
Doug Wieselman : baritone and tenor sax
Paul Shapiro : tenor sax
Steve Bernstein : trumpet, horn arrangement
Art Baron : trombone
Ornette Coleman : alto sax
Frank Wulff : oboe, hurdy-gurdy
Antoine Silverman, Marti Sweet : violin
Patrick Carroll : bass, drum programming
Shelly Woodworth : English horn
Russ DeSalvo : guitar, keyboards
Rob Mathes : string arrangement
Kate & Anna McGarrigle, Laurie Anderson, Antony Hegarty, David Bowie, The Blind Boys of Alabama : vocal
Willem Dafoe, Steve Buscemi, Elizabeth Ashley, Amanda Plummer : voice