前作からまたまた4年、20世紀最後のルー・リードのアルバムが発表されました。タイトルは「エクスタシー」です。この4年間にアンソロジーやらライヴ盤などが発表されていますし、ルー・リードの話題は今回も途切れることはなく、第二の黄金期状態にありました。

 ジャケットはエクスタシーを感じて恍惚としているルー・リードのポートレートです。カメラマンはルーに自慰をするように指示をしたという出来すぎた逸話が残されています。このあたりが永遠の不良少年を希求するルーのファンに受ける所以でもあります。

 本作品でルーはプロデューサーにハル・ウィルナーを迎えました。ウィルナーが1995年に制作したクルト・ワイルへのトリビュート・アルバムにルーが参加した縁だと思われます。ここでルーは「セプテンバー・ソング」をまるでルーのオリジナルのように歌っていました。

 バンドはフェルナンド・ソーンダースとトニー・スミスのヤン・ハマー・コンビにギターのマイク・ラスケが復帰しました。本作品も基本的にはこのバンドが核となっていますけれども、ウィルナーのプロデュースということでストリングスやホーンが加わって存在感を示しています。

 特筆すべきはツアーにも同行するチェロのジェイン・スカルパントーニでしょうか。ジェインはクラシック教育を受けた人にしては珍しく、1980年代から先鋭的なロック・バンドとの共演が多い人です。ここでのチェロも違和感がまるでありません。

 本作品は結婚と男女の仲を主題にしたコンセプト・アルバムになっています。その点で言えば、後に結婚することになるローリー・アンダーソンがエレクトリック・ヴァイオリンで3曲ほど参加していることも特筆されるべきでしょう。ルーにとってのファム・ファタールです。

 ローリーのヴァイオリンは本作品の目玉のひとつ「ライク・ア・ポッサム」で縦横無尽の活躍をしています。この曲は18分にわたって、アヴァンギャルドな演奏にルーの語りが続く曲で、ヴェルヴェッツの「シスター・レイ」や「黒い天使の死の歌」にしばしば比肩されます。

 とはいえ、アルバム全体は前作に比べてもさらに落ち着いたサウンドが中心です。ウィルナーのプロデュースにより、ロック色は後退しているように思います。ロックそのものの曲もあるのですが、ことさらにロックを演じているような気配がします。

 数々のユニークなトリビュート・アルバムを手掛けるウィルナーの引き出しは大きく、ルーは嬉々としてロック一辺倒からの脱却を図っているようです。ウィルナーとルーはこの作品の後もコラボレーションを続けていくことになります。よほど相性が良かったのでしょう。

 本作品はそんなウィルナーのプロデュースがあたり、「ブルー・マスク」や「ニューヨーク」に匹敵する傑作とされるようになりました。商業的にはこれまた惨敗といってよいのですが、そんなことは誰も気にしていないように思われます。盤石のヒーローぶりです。

 各楽曲はそれぞれに一癖も二癖もあり、「ミスティック・チャイルド」や「バトン・ルージュ」、「ロック・メヌエット」、「ビッグ・スカイ」から「ライク・ア・ポッサム」までさまざまな作品を演じ分けているような感じです。前作までと少し方向を異にする傑作です。

Ecstasy / Lou Reed (2000 Reprise)



Tracks:
01. Paranoia Key Of E
02. Mystic Child
03. Mad
04. Ecstasy
05. Modern Dance
06. Tatters
07. Future Farmers Of America
08. Turning Time Around
09. White Prism
10. Rock Minuet
11. Baton Rouge
12. Like A Possum
13. Rouge
14. Big Sky

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar, percussion
***
Mike Rathke : guitar
Fernando Saunders : bass, chorus
Tony "Thunder" Smith : drums, percussion, chorus
Don Alias : percussion
Laurie Anderson : violin
Steven Bernstein : trumpet, horn arrangements
Doug Wieselman : baritone and tenor sax
Paul Shapiro : tenor sax
Jane Scarpantoni : cello