紙ジャケからCDを取り出すと、いきなり大きく「#帽」の文字が出てきて驚きました。本作品を販売しているスイスのハット・ハット・レコードのロゴなのでした。改めて見返すとジャケット裏には「#帽子」と書いてありました。ちょっと帽の字が変ですが、粋なロゴです。

 ハット・ハット・レコードは1975年に設立された老舗で、主にジャズとクラシックのアルバムを手掛けていました。ハット・ハットは多くのサブ・レーベルをもっており、本作品は2019年にハット・ハットがスタートしたエズテリック・レーベルからの発表です。

 ジャケットにはいろいろ書いてありますが、本作品のタイトルは「ブレイキング・ニュース」、演奏者はスタジオ・ダン、ジョージ・ルイスとオクサナ・オメルチュクは本作品に収録されている二曲を作曲した作曲家です。クラシックのスタイルで表記されているわけです。

 スタジオ・ダンは2005年にジャズワークスタット・フェスティヴァル・ウィーンのためのビッグ・バンドとしてダニエル・リーグナーが設立したバンドです。フェスティヴァル自体も若手音楽家に活動の場を与えようとその前年に創設されており、リーグナーも発起人の一人です。

 バンドはいろいろなバックグラウンドをもった年齢や性別にとらわれないメンバー構成でさまざまな要求に柔軟に応えることのできるバンドとして、幅広い活動を繰り広げており、ウィーンのクラブで定期演奏をしている他、国際ツアーも頻繁に行っています。

 本作品で取り上げた楽曲は2曲で、最初はジョージ・ルイスの「アズ・ウィー・メイ・フィール」です。ルイスはトロンボーン奏者ですけれども、ジャズのみならず現代音楽やコンピューターを使った音楽なども手がけ、さらにそれらを探求する学者でもあります。

 AACMのメンバーでもありますから、ロスコー・ミッチェルを始め、名だたるフリー・ジャズ系のミュージシャンとの相性がとても良い人です。スタジオ・ダンとの共演経験もあるそうで、同じトロンボーン奏者としてリーグナーと相通じるものがあるのでしょう。

 ここでのルイス楽曲はドラム、ベース、ピアノにサックス、トランペット、トロンボーン、さらにバイオリン、チェロ、フルートという9人編成です。即興中心というよりも現代音楽的な室内楽団による演奏です。いらちなリズムで飛び跳ねる面白い曲です。

 もう1曲は1975年生まれの作曲家オクサナ・オメルチュクが2017年に2台のトロンボーンとアンサンブルのために作った「ワウ・アンド・フラッター」なる曲です。タイトルは昔のレコードやカセットの雑音や音の歪みを表すそうで、過去の録音技術を題材にしています。

 サンプリングも駆使していて、最初期の亜鉛盤収録のオペラの一節が飛び出したり、ジャズやカントリー、ロックなどを思わせるフレーズが不思議なリズムに乗せて、雑音を模したサウンドとともに飛び交うという大変面白い曲です。こちらも9人編成のアンサンブルです。

 解説はアメリカの情報学者ヴァネヴァー・ブッシュのメメックスなる概念との係わりで作品を論じていますけれども、特にオメルチュクの曲などはエンターテインメント性も高く、そんな方向に持っていかなくても十分に素晴らしいと思います。かっこいいですからね。

Breaking News / Studio Dan (2020 Ezz-Thetics)

本作品ではありませんが、スタジオ・ダンによるジョージ・ルイス楽曲の演奏です。


Tracks:
01. As We May Feel (George Lewis)
02. Wow And Flutter (Oxana Omelchuk)

Personnel:
Sophia Goidinger-Koch : violin
Malken beer : violoncello
Manuel Mayr : double bass
Constantin Herzog : double bass, electric bass
Thomas Frey : flutes
Clemens Salesny : slto sax, clarinets
Dominik Fuss : trumpet
Daniel Riegler : trombone
Matthias Muche : trombone
Michael Tiefenbacher : piano, synthesizer, sampler
Mathias Koch : drums