ジャケットをどう見るかで印象ががらりと変わります。ジュエル・ケースに色がついているためにルー・リードのポートレートは濃いブルーの写真にみえます。しかし、ブックレットを取り出すと、鮮やかな黄色い光線が立ち現れます。表情まで違って見えます。

 ルー・リードの17枚目となるスタジオ・アルバムは「セット・ザ・トワイライト・リーリング」と題されました。重い主題を扱った前作から4年が経過しています。この間、キャリアを総括した3枚組のアンソロジーも発表されていますし、ルーの話題は途切れることがありませんでした。

 本作品の直前にはヴェルヴェット・アンダーグラウンドがロックの殿堂入りを果たしており、セレモニーでは前年に逝去したスターリン・モリソンに捧げる演奏を残りの三人で行っています。この頃のルー・リードは以前よりもずっとメインストリームの人になっていました。

 これはルーの音楽性が変化したというよりも、むしろロックのメインストリームがヴェルヴェット・アンダーグラウンドないしルー・リードに寄ってきたということなのでしょう。「パーフェクト・デイ」がリバイバル・ヒットするのは翌年のことです。

 本作品は大変落ち着いた作品になっています。この年、ルーは53歳です。変な気負いなどみじんもありませんし、ことさらに重いテーマを軸にすえているわけでもありません。ごくごく自然体でシンプルながら奥の深いロックを演奏するのみ。かっこいいです。

 バンドは基本スリー・ピースです。今回はベースにフェルナンド・ソーンダースが帰ってきました。ドラムにはおそらくはソーンダースが連れてきたのでしょう、トニー・「サンダー」・スミスが据えられました。ここにギターとボーカルのルー。最小限の構成です。

 ソーンダースとスミスは1970年代にはヤン・ハマー・グループを支えたリズム・セクションでした。ジェフ・ベックの名盤に参加していることからすれば、ここでのルー・リードはジェフ・ベックになぞらえてもおかしくありません。ザ・ギタリスト、ルー・リードです。

 本作品ではソーンダースのベースも落ち着いています。以前のルーのアルバムではまるでリード楽器のようでしたけれども、本作品では「トレード・イン」のようなぶんぶんベースもありますが、基本的には控えめな演奏です。スミスのドラムもタイトにリズムを支えています。

 その分、ルーのギターが大活躍しています。いつもの曖昧ギターからパワーあふれるぶんぶんストローク、アコギからエレキまでさまざまなギターが堪能できます。これほど表情豊かなルーのギターも珍しいです。派手な演出はなく、渋いサウンドが溢れています。

 話題はモリソンに捧げた「フィニッシュ・ライン」です。ヴェルヴェッツを思わせる曲調で、Eストリート・バンドのロイ・ビタンがピアノで参加しています。他の曲では運命の人ローリー・アンダーソンがコーラスで参加している他、オリバー・レイクなども顔をだしています。

 意外に思ってしまいますが、ルー・リードのボーカルはとても歌詞が聴きとりやすいです。詩人としてしっかりと言葉を伝えようとする意思を感じます。前作のようなヒットにはなりませんでしたけれども、そんなことではルーの人気は微動だにしません。もはや無敵。

Set The Twilight Reeling / Lou Reed (1996 Warner Brothers)



Tracks:
01. Egg Cream
02. NYC Man
03. Finish Line
04. Trade In
05. Hang On To Your Emotions
06. Sex With Your Parents (Motherfucker), Part II
07. HookyWooky
08. The Proposition
09. Adventurer
10. Riptide
11. Set The Twilight Reeling

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
***
Fernando Saunders : bass, guitar, chorus
Tony "Thunder" Smith : drums, chorus
Oliver Lake, J.D. Parran, Russell gunn : horns
Roy Bittan : piano
Mino Cinelu : percussion
Laurie Anderson : chorus