前作で一躍前線に戻ってきたルー・リードは1990年にオリジナル・メンバーでヴェルヴェット・アンダーグラウンドを再結成します。1992年にはライブ・ツアーを実施しており、私はロンドンのウェンブリー・アリーナで行われたライブを目撃しました。

 本作品は前作から3年の間隔を空けて発表されたのですが、その間はヴェルヴェッツの再結成話で持ちきりで、ルーの名前は忘れられるどころか、ちょっとしたフィーバーの様相を呈していました。そうでなければ本作品の英国でのトップ10入りはなかったでしょう。

 「マジック・アンド・ロス」はアルバム制作中にルーが友人二人の死を経験したことから、現世における死をテーマに据えるという重いものになりました。渾身の詩作が並んでいるといってよいでしょう。各楽曲には副題までつけて、聴く者の理解を促しています。

 私が持っているのは英国盤で、付属の分厚いブックレットには英語はもちろんのこと、独仏西伊4か国語に翻訳された歌詞が印刷されています。それだけ歌詞が中心に座っているといえます。結果は前作以上に自然に本を読んでいる気分になります。

 しかもルーの書く詩は抽象的なものよりも具体性の強い物語のような詩が多い。本作でもがん治療から何からとても具体的に死に迫ってきます。そうした歌詞をポエトリー・リーディングのように饒舌に語っています。詩人ルー・リードはますます快調です。

 サウンド面では、前作同様にシンプルな編成で音楽を奏でているのですが、プロデュースも担当していたフレッド・マーは参加していません。今回はプロデューサーには前作から登場した若いギタリスト、マイク・ラスケが担当しています。よりシンプルになりました。

 今回はギターのサウンドもことさらにソロを弾きまくるわけではなく、曖昧ギターがふわふわ漂う作風で、そのこと自体はヴェルヴェッツ時代に回帰したともいえます。しかし、奇を衒ったアレンジはまるでみられず、メンバーの力量によるプロとしての貫禄に置き換わっています。

 ラスケはルーとプロデューサーのクレジットを分かち合っており、どこまでの役割が与えられたのか分かりにくいですが、ルーの歌がこれまで以上に前面に出てきていることから、本作品をポエトリー・リーディングととらえて制作にあたったような気がします。

 ところで、このアルバムにはゲストとして、伝説の「リトル・ジミー・スコット」が参加しています。わずかに「パワー・アンド・グローリー」一曲だけの参加ですけれども、その存在感は抜群です。時間もほんの少しですけれども、その声が響くと思わず息をのんでしまいます。

 亡くなった友人の一人、ブルース歌手ドク・ボーマスはルーを音楽業界に紹介した人でした。ジミーは1950年代から60年代に活躍したのち、この頃には忘れられた歌手でしたが、ボーマスのお葬式で歌ったことが縁で本作品への参加とあいなりました。

 ジミーは本作への参加で再び大脚光を浴びます。ルーのボーマスへの恩返しともいえるちょっといい話です。シリアスな本作品にふさわしい話でもあります。物語のあるところには新しい物語が発生するものです。英国での成功もだてじゃないということです。

Magic and Loss / Lou Reed (1992 Sire)

*2011年2月12日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Dorita
02. What's Good
03. Power And Glory
04. Magician
05. Sword Of Damocles
06. Goodby Mass
07. Cremation
08. Dreamin'
09. No Chance
10. Warrior King
11. Harry's Circumcision
12. Gassed And Stoked
13. Power And Glory Part II
14. Magic And Loss

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
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Mike Rathke : guitar
Rob Wasserman : bass
Michael Blair : percussion, drums, chorus
Roger Moutenot : chorus
Jimmy Scott : chorus