ルー・リードにこんな素晴らしいアルバムを作る力が残っていたのか!と、発表当時、音楽界を騒然させた「ニュー・ヨーク」です。考えてみれば、とても失礼な話ですが、この頃のルー・リードは世間一般にはすでに過去のヒーローとなっていたのでした。

 前作「ミストライアル」から3年ぶりに発表されたこの作品は、久しぶりにゴールド・ディスクとなり、ヒット・チャートでもトップ40入りするそれなりのヒットになりました。世間的にはヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代に戻ったようだと大いに歓迎されました。

 時は1980年代の終わり、全体的にゴージャスに流れがちだったロック界において、本作品のシンプルさがとてもまぶしく映りました。1980年代のベスト・アルバム100選などがあると本作品が顔を出すことが多かったように記憶しています。特に日本では。

 バンドは、ギターにルーとマイク・ラスケ、ベースにロブ・ワッサーマン、ドラムにフレッド・マーというシンプルな編成です。ラスケとワッサーマンが新顔です。このシンプルな編成で全編いたってシンプルなロックを聴かせてくれます。フレッド・マーはプロデュースも担当しています。

 話題になったのは、2曲でヴェルヴェッツ時代のドラマー、モーリン・タッカーが参加していることです。アルバムに参加するのは解散以来初のことでした。この頃、ジョン・ケイルとのコラボも実現しており、ヴェルヴェッツ再結成かと盛り上がりました。これは結果的に実現します。

 タッカーのドラムは前作で使用した打ち込みドラムとは対極にあります。元マテリアルのフレッド・マーの職人ドラムともまるで違います。いわば、へなちょこドラマーで、人力の魅力を最大限に生かした演奏が持ち味です。この作品でも輝いています。

 さて、本作についてルー・リードは、「全編を通して、本を読むか映画を見るかのように味わえ」とジャケットに指示を記載しています。歌詞はニュー・ヨークにまつわるさまざまな物語を描いたもので、いわゆるコンセプト・アルバムです。まるで本や映画だということです。

 その言葉通り、本作品では詩人ルー・リードが全開です。そぎ落とされたシンプルなサウンドをバックに、いつになく落ち着いた声で詩を語るルー・リードの姿は、前作までとは異なるレベルでの自信に満ちているように感じます。まるでポエトリー・リーディングです。

 ギターも若いマイク・ラスケを右チャンネルに起用して、自身は左チャンネルを担当します。二人のギターによる交感がアルバム全体のトーンを作り上げていきます。そこにソロとしても活躍しているロブ・ワッサーマンのベース、そしてマーのドラム。かっこいいです。

 とはいえ、久しぶりに聴いてみると、バンドががらりと入れ替わっているものの、前作とそれほど断絶があるわけでもありません。むしろレコード会社が代わって、きちんとプロモーションされるようになったことが大きいのではないでしょうか。ルーは相変わらずルーです。

 ただし、あまりに歌詞の比重が大きくなり、文学ロックの様相を呈してきたため、当時の私は少し敬遠していたのも事実です。あれから30年、そんな狭量なことを言わずとも、このシンプルなロックを愛でることができるようになりました。傑作には違いありませんから。

New York / Lou Reed (1989 Sire)

*2011年2月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Romeo Had Juliette
02. Halloween Parade
03. Dirty Blvd.
04. Endless Cycle
05. There Is No Time
06. Last Great American Whale
07. Beginning Of A Great Adventure
08. Busload Of Faith
09. Sick Of You
10. Hold On
11. Good Evening Mr. Waldheim
12. X'Mas In February
13. Strawman
14. Dime Store Mystery

Personnl:
Lou Reed : vocal, guitar
***
Mike Rathke : guitar
Rob Wasserman : bass
Fred Maher : drums, bass
Maureen Tucker : percussion
Dion DiMucci, Jeffrey Lesser : background vocal