ペレス・プラードの音楽を聴いていると、幼い頃に見ていたテレビのバラエティー番組を思い出します。1960年代の日本のテレビで生演奏していたオーケストラの多くはラテン音楽を得意とする人たちでした。無性に懐かしいのはそのせいです。

 ペレス・プラードは言うまでもなく、ラテン音楽の巨人です。キューバに生まれたペレス・プラードは1950年代からメキシコやアメリカでヒット曲を連発しました。ラテン音楽に疎い私でも彼の名前は子どもの頃から知っていました。世界的なアーティストです。

 本作品「ハヴァナ午前3時」は数多いペレス・プラード作品の中でも代表的作品として高く評価されているアルバムです。「ベサメ・ムーチョ」や「南京豆売り」などの超がつく有名曲も収めたご機嫌なインストゥルメンタル・アルバムとなっており、大いにヒットしました。

 キューバの首都ハヴァナは午前3時になってもまるで眠らない、そんな故郷に思いを馳せたアルバム・タイトルです。本作品はキューバ革命以前ですけれども、ハヴァナは革命以降も音楽に満ち溢れています。さすがは大衆音楽をはぐくんだ都市です。

 私もキューバを訪問したことがあります。ハヴァナのナイト・クラブに連れて行ってもらったのですが、大いににぎわっていたものの、バンドの演奏が始まったのは12時過ぎでしたから、最後まで見届けることができませんでした。恐るべし、キューバ。

 さて、ここでペレス・プラードが率いているオーケストラは曲によって異動はあるものの、大たいトランペットが6人、トロンボーンとサックスが数名とホーン陣だけで10名程度、ここにギターやベース、ドラムにパーカッションが加わり、15~18名の布陣です。

 意外にパーカッションが少ないのですが、もちろん存在感は抜群です。分厚いホーンのサウンドと重めのマンボのリズムが絡み合うさまはじゅるじゅると汁が滴ってきそうに濃厚です。熱い空気に汗が飛び散るねっとりしたサウンドが素敵です。

 収録されている曲は全部で12曲あります。ペレス・プラードによるオリジナルというよりも、ラテンのスタンダードを彼独自のアレンジで聴かせる形が中心です。どんな楽曲もペレス・プラードの手にかかるとアフロ・キューバンなサウンドが輝きます。

 最も有名なスタンダード曲はメキシコのコンスエーロ・ベラスケスが作曲した「ベサメ・ムーチョ」でしょう。ここではべたべたの熱い曲がマンボにアレンジされて楽し気な演奏になっています。もう一曲は「南京豆売り」、キューバのソンの名曲です。アコギが斬新です。

 しかし、本作品で最も注目を集めるのは最後の「キューバ幻想曲」でしょう。短い曲が並ぶ中で8分もある大作で、原題の「モザイク・クバーノ」が示す通り、さまざまな演奏がモザイク状に飛び出すプログレッシブな曲です。アーティスト、ペレス・プラードの面目躍如です。

 極めて完成度の高いアルバムです。ラテン音楽がロックのような他地域の若者の受け皿にならなかったのはおそらくはこの完成度の高さにあるのではないかと思います。下手でもそれが味わいになるロックとはまるで違います。凄さに聴き惚れてしまうアルバムです。

Havana, 3 a.m. / Prez Prado (1956 RCA)



Tracks:
01. La Comparsa
02. Desconfianza
03. La Faraona
04. Besame Mucho
05. The Freeway Mambo
06. Granada
07. Almendra
08. Bacoa
09. Peanut Vendor 南京豆売り
10. Baia
11. Historia De Un Amor ある恋の物語
12. Mosaico Cubano キューバ幻想曲

Personnel:
Perez Prado : leader
Tony Facciuto, Don Dennis, Maynard Ferguson, Ray Triscari, Robert Mckinzie, Jack Hohman : trumpet
Dave Sanchez, Milton Bernhart : trombone
Don Robinson, Nash Maes, Miguel Sanchez, Rene Bloch : sax
Joe Carrioca : guitar
Marcus Morales, Carlos Sanchez : bass
Leo Acosta : drums
Modesto Duran, Alfred Vicante, Eddie Gomez : conga
Eddie Gomez : maracas