西洋人によるガムラン音楽です。アンサンブル・ニスト・ナーはフランスのナントを拠点に活動するオーストラリア人ドラマー、ウィル・ガスリーが率いる9人組のパーカッション・アンサンブルです。本作品「エルダーズ」はアンサンブルのデビュー・アルバムです。

 これがデビューとはいえ、ウィル・ガスリー自身のキャリアは長く、1997年にオーストラリアの有名なワンガラッタ・ジャズ・フェスティバルのドラム部門で受賞した頃から第一線で活躍し続けています。これまでに発表したアルバムはゆうに50作を超えるとのこと。

 ガスリーはドラムでキャリアを始めていますが、途中でジャンクなエレクトロニクスや、エクストリームなサウンドを追及するなど、オーソドックスなドラムに囚われない好奇心の旺盛な幅広い活動を行っています。そう聞くと、ガムラン・プロジェクトも素直に納得できます。

 ガムランは古いジャワ語で「たたく」を意味するガムルから来ているそうで、その名の通り打楽器を中心とした音楽です。打楽器とはいっても皮を張った太鼓のようなものよりも、青銅や竹、木などを直接叩いて音を出す楽器が中心の編成であるところが特徴です。

 なんでも叩きたくなる、好奇心旺盛な打楽器奏者にとっては一度はやってみたい音楽なのでしょう。青銅などの金属の出す音は甲高くてしかも上品、余韻の残るサウンドは単体でも美しい。これをアンサンブルでがしがし叩くのはさぞや楽しいことでしょう。

 本作品でのアンサンブルはフランスのミュージシャンばかりを集めています。伝統的なミュージシャン、コンテンポラリーなパーカッショニスト、ノイズやフリー・ジャズの猛者などさまざまなバックグラウンドの人々が集まって、ガムラン楽器と格闘しています。

 ガスリーはインドネシアに旅をしており、ジョグジャカルタのスカテン祭りのガムランやら、バリ島のジャティラン・ダンスのガムランから現代の作曲家による作品まで、幅広くガムラン音楽を学んでいます。その結果がアンサンブルの本作品に凝縮されているわけです。

 とはいえ、本作品はけっしてトラディショナルなガムラン音楽を再現しているわけではありません。楽器は伝統的なパーカッションにドラム・キットを加えた構成が基本ですから、サウンド自体はガムラン音楽といえるのでしょうが、受ける印象はかなり違います。

 DJコンピューマさんの言葉を借りると、アンサンブルはここで「モダン・エキゾチック・トランシー・ユニークなオリジナリティ魅惑エレガントなポスト・アヴァンギャルド・ガムラン・パーカッション・アンサンブルを目眩く繰り広げてくれて」います。

 アカデミックに走るわけではなく、エキゾチックに逃げ込むこともない。ガムラン音楽への愛を感じますけれども、音楽はガスリーの音楽そのもの。ジャンクなども含む多彩な音色の打楽器群が空間を埋め尽くすさまには幻惑されます。とても面白い作品です。

 発表はフューや灰野敬二の作品などもリリースしているオーストラリアのブラック・トリュフ・レコードからです。なんかいい感じです。ただし、フランスで録音されたこの作品、繊細な打楽器の響きを録りきれていないように感じます。もう少し改善できたような気がします。

Elders / Ensemble Nist-Nah (2022 Black Truffle)

参照:NEWTONE RECORDS



Tracks:
01. Geni / Tirta
02. Overtime
03. Planeker
04. Elders
05. Rollin
06. Swayer

Personnel:
Prune Bécheau, Charles Dubois, Thibault Florent, Will Guthrie, Amélie Grould, Mark Lockett, Sven Michel, Lucas Pizzini, Arno Tukiman : Gamelan, drums, percussion
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Jessika Kenney : voice
Toma Gouband : percussion
Annalee-Rose Guthrei : saron