ルー・リードのライヴ・アルバムとしては1973年12月のライヴを収録した「ロックン・ロール・アニマル」と「ルー・リード・ライヴ」以来となるアルバム「テイク・ノー・プリズナーズ」です。2枚組の大作は1978年5月のニューヨークでのライヴを記録した作品です。

 二つのライヴの間には5年間の月日が流れていますが、よくもまあこれだけ違うものだと思うくらいに両者は違います。ルー・リードのようなソロ・アーティストによるライヴはやはり変化が激しいものです。同じ曲を演奏していてもまるで違って聴こえます。

 しかも、本作品はルーの地元ニューヨークのボトム・ラインでのライヴということで、とにかくルーが曲に乗せてしゃべるしゃべる。もはやラップ。アルバム・タイトルを「ルー・リードがしゃべってしゃべってしゃべりまくる」としようかと思ったと本人が後に語っているくらいです。

 この頃のルーはステージでは客とコミュニケーションをとらないイメージがあったので、彼がこれほど話すとは予想外だったようです。本人もニューヨークだったから話したのだということですから、この時期のルーのライヴの中でも特異な位置にあるのではないでしょうか。

 私は後にルーのライヴを日本とイギリスで経験することになるのですが、日本ではもちろん、英国でもそれほど話したりはしていませんでした。同じ時期ではないので比べられませんけれども、やはり地元は違うのだということだけはよく分かります。

 それでは何をしゃべっているのかということですが、さすがに私の英語力では聴きとれません。「スプリングスティーン・イズ・オーライト」くらいですかね、はっきり分かるのは。なんでもブルースは会場にいたというではありませんか。ニューヨークのロック・スターは仲良しです。

 それと有名なロバート・クリストガウを始めとする評論家連中のことをしつこくこき下ろしているのは分かります。ルーが饒舌に悪口を言うわけですから、観客の喜びようは大変なものがあります。なお、前半にはお約束の客に対する「シャアラップ」もしっかり出てきます。

 バンド・メンバーはベースを除いて直前のスタジオ・アルバム「ストリート・ハッスル」の面々です。スタジオでもバンドっぽさを発揮していましたから、ライヴでも当然のようにしっかりとバンドとなっています。そこが過剰ともいえるギターの1973年ライヴとは大きく違います。

 収録されている曲は一曲一曲が長くて約100分に全10曲となっています。最初の曲はライヴのベンチマークとなる「スウィート・ジェイン」です。この曲がどんな具合かでライヴが何年のものかが分かると言ってもよいでしょう。ここでは正統派ロック仕様です。

 ヴェルヴェッツ時代の曲では他に「僕は待ち人」と「ペール・ブルー・アイズ」があるのみで、大半は直近のソロ時代の曲です。それぞれが原曲とは大きく異なるアレンジとなっていて、それだけでライヴの値打ちがあるというものです。賛否両論は当然あるでしょうが。

 変ったアレンジをしようという意図はなく、過去の名曲たちが極めてまっとうなロック仕様で生まれ変わっています。ロックン・ローラーとしてのルー・リードの姿が自然体で表れたアルバムだといえます。何といっても楽しそうなところが素敵です。

Take No Prisoners / Lou Reed (1978 Arista)



Tracks:
01. Sweet Jane
02. I Wanna Be Black
03. Satellite Of Love
04. Pale Blue Eyes
05. Berlin
06. I'm Waiting For The Man
07. Coney Island Baby
08. Street Hassle
09. Walk On The Wild Side
10. Leave Me Alone

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar, guitar synthesizer
***
Stuart Heinrich : guitar, chorus
Marty Fogel : sax
Michael Fonfora : piano
Ellard Boles : bass, chorus
Michael Suchorsky : drums
Angela Howell : tambourine, chorus
Chrissy Faith : chorus