デビュー・アルバムから1年にして4枚目のアルバムとなった中森明菜の「NEW AKINA エトランゼ」です。実に快調なペースでアルバム制作が進んでいます。このアルバムも当然のようにオリコン・チャートでは1位になっています。日の出の勢いです。

 アルバムの帯には「ヨーロッパ・レコーディング、撮影、そして新しい作家との出逢い。明菜2年目の歴史がここから始まる」と気合が入った煽り文句が入りました。ジャケットもこれまでのアイドル路線から脱皮してヨーロピアンでまとまりました。

 しかし、ヨーロッパ・レコーディングには違いありませんが、参加しているミュージシャンは日本人ばかりで、しかも人数がとても多い。旅費を考えるとバンドを引き連れてのヨーロッパ録音は厳しいでしょうから、日本のスタジオとの分担が気になりますね。

 ともあれ、本作品にはアーティスト志向が見られるようになりました。もともと中森明菜はアイドルでありながら、自分の作品に口を出す自覚的なアーティストであるとの噂が聞こえてきていましたから、本格的にアーティスト路線に踏み出そうとしているのだと思われました。

 アーティスト志向はシングル・ヒット曲を収録していないことにも表れています。前作以降、「1/2の神話」と「トワイライト‐夕暮れだより」の二曲がシングル・ヒットしており、さらに本作の翌月に「禁句」のヒットが生まれましたが、いずれも本作品には収録されていません。

 本作品はシングルの埋め草で出来たアルバムではなく、アルバムとしてまとまったトータルな完成品であると主張しているわけです。そのアルバムに招かれた作家陣はとても豪華です。アルバムにかける意気込みがひしひしと伝わってきます。

 ここでは、来生えつこ・たかお、阿木燿子・財津和夫、売野雅勇・細野晴臣、谷村新司、横浜銀蝿の5組のアーティストがそれぞれ2曲ずつ提供しています。バラエティー豊かな作家陣ですが、編曲は前作同様に萩田光雄がほぼすべてを担当しています。

 「セカンド・ラヴ」の来生コンビ、「少女A」を作詞した売野雅勇を除けば新しい作家ばかりです。ここで阿木燿子に谷村新司と来れば、山口百恵を思い出さずにいられません。山口百恵の後継者は中森明菜であるという世の中の空気を追認する意図でしょうか。

 一方、財津和夫に細野晴臣といえば松田聖子です。ただし、細野の曲「モナムール」は編曲も演奏も細野一人で、いわゆるイエロー・マジック歌謡曲になっています。いろいろと目配りをした人選です。そして横浜銀蝿。ヤンキーの女神の面目躍如たるものがあります。

 こうした多彩な作家陣による楽曲を萩田が器用にアレンジしているため、各楽曲ごとに世界が完結しており、中森明菜の歌声も曲ごとに変っています。全体に歌謡曲色が強く出ており、情念の歌手中森明菜の演歌一歩手前の歌唱が耳を惹きます。

 この当時、中森明菜と松田聖子はまるでオアシスとブラーのようにライバルと捉えられており、みんなが面白がって抗争させていました。本人たちはどうか分かりませんが、パイオニアとソニーは明らかにお互いを意識していたでしょう。その抗争の匂いがするアルバムです。

New Akina Etranger / Akina Nakamori (1983 ワーナー・パイオニア)



Tracks:
01. さよならね
02. ヴィーナス誕生
03. 少しだけスキャンダル
04. 感傷紀行
05. ルネサンスー優しさで変えてー
06. モナムール(グラスに半分の黄昏)
07. ストライプ
08. わくらば色の風
09. 時にはアンニュイ
10. 覚悟の秋

Personnel:
中森明菜 : vocal
***
横浜銀蝿
細野晴臣
牧田バンド
今剛、芳野藤丸、吉川忠英、矢島賢、谷康一、北島健二、高島政晴、安田裕美 : guitar
岡沢章、長岡道夫、渡辺直樹、高水健司、杉本和弥 : bass
渡嘉敷祐一、島村英二、岡本郭男、山木秀夫、滝本季延 : drums
石井宏太郎、鳴島英治、菅原裕紀 : percussion
山田秀俊、富樫春生、倉田信雄 : keyboards
ジェイク・コンセプション : tenor sax
数原晋、吉田憲治 : trumpet
新井英治、岡田澄雄 : trombone
多アンサンブル : strings
山川恵子 : harp
コーポレイション・スリー、バズ、新倉芳美、山根宮子、高橋香代子 : chorus