我々はエレクトリック・ヴァイオリンの調べを耳にすると宇宙を思い浮かべるようにプログラミングされているように思います。同じヴァイオリンでもインド音楽やカントリーで使われると大地を思い浮かべるのにエレクトリックになると途端にスペース。面白いものです。

 ROVOは1996年に「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と結成されたバンドです。中心となったのはヴァイオリンの勝井祐二とギターの山本精一です。山本はかの有名なボアダムズを始めとする関西オルタナティブシーンの中心人物です。

 山本が参加していることからも分かる通り、このバンドは新人などではありません。他のメンバーも含めてそれぞれが音楽シーンでキャリアを積んできた猛者ばかりです。1970年代風な言い方をすればスーパーグループということになります。

 バンドの特徴でもあるツイン・ドラムには芳垣安洋と岡部洋一、ベースには原田仁、シンセサイザーは益子樹。いずれもその参加プロジェクトを列挙するだけでかなりの字数を要する人々です。宇宙っぽいでっかい音楽をやるには最適な人物がそろいました。

 本作品はROVOの2年ぶり10作目となるアルバム「フェイズ」です。前作が「ROVO結成15年の活動を総括し、さらなる新次元に到達した最高傑作」とされているのに対し、本作品は「時代を生き抜くための音だけが詰まっている」と公式サイトは解説しています。

 何やら不穏な書きぶりではありますけれども、本作品も安定したROVOサウンドが展開しています。彼らの作り出す音楽はしばしば「人力トランス」と称されます。「バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた」人々です。

 彼らはライブ活動にも積極的で、「驚異のツインドラムから叩き出される強靭なグルーヴを核に、6人の鬼神が作り出す音宇宙。音と光、時間と空間が一体となった異次元時空の中、どこまでも昇りつめていく非日常LIVE」が彼らの持ち味です。

 これまたしばしば指摘されるのはジャーマン・プログレッシブ・ロックの影響です。あちらはエレクトロニクスが未熟だったがために他に選択肢がなくて人力でやっていたのですが、こちらはエレクトロニクスも使える中であえて人力で攻めるという違いがあります。

 それに何といってもこちらは演奏能力が高いです。よく比較されるノイ!などは「自分たちにはこれしかできません」と開き直っている感じですが、こちらはさまざまなプロジェクトでも活躍してきた人々ばかりですから、あえてこのようなサウンドを選んだという余裕があります。

 ツインドラムスによって刻まれるダンスビートはミニマリズムを標榜していたとしても単調なリズムでは毛頭ありません。そこにギター、シンセが絡み、ヴァイオリンが派手に歌い上げるわけで、ダンスミュージックではあるものの大変饒舌なサウンドになっています。

 大変スポーティヴなサウンドですから、かつてのフュージョンやプログレの爽快感がよみがえります。どの曲も中距離走を走り抜けるような感覚で、さわやかな汗に心地よい風が吹いてくるように思います。これがライヴで再現されるというのは凄いことです。

Phase / ROVO (2012 ワンダーグラウンド)



Tracks:
01. Batis
02. Compass
03. D.D.E.
04. Air
05. Rezo

Personnel:
勝井祐二 : violin, viola
山本精一 : guitar
芳垣安洋 : drums, percussion
岡部洋一 : drums, percussion
原田仁 : bass
益子樹 : DX7, SH101, Mopho