ルー・リードのソロ第二作目「トランスフォーマー」はデヴィッド・ボウイとミック・ロンソンの押しかけプロデュースで制作され、期待通りの見事な傑作になりました。しかも、それまで無縁だった英米のヒット・チャートにも顔を出すという商業的な成功まで収めました。

 ソロ・デビュー作はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの燃え残りのような感じでしたが、本作品はソロとして確固たる世界が築かれています。ほぼ初対面のミュージシャンと録音した前作とは異なり、しっかりとバンド形式で一体感をもって制作に臨んだことも大きいです。

 ロンソンはプロデュースだけではなく、演奏も引っ張っています。ルーも本作品におけるロンソンの存在の大きさに言及しています。そして、ボウイの痕跡もあちらこちらに残っています。彼らが集めてきたミュージシャンとの息ももちろんぴったり合っています。

 中でもビートルズ関係で有名なクラウス・フォアマンとベースを分けあうハービー・フラワーズの活躍が特筆されます。何といっても本作からの全米トップ10ヒット曲「ワイルドサイドを歩け」の印象的なベースがフラワーズの発案になるものだというではありませんか。

 収録されている曲は名曲「アンディの胸」など一部ヴェルヴェッツ時代のものもありますけれども、大半は新しい曲です。その中では「ワイルドサイドを歩け」の他にも「サテライト・オブ・ラヴ」や「パーフェクト・デイ」など他のアーティストにカバーされる名曲が光っています。

 特に「パーフェクト・デイ」はU2のボノ他多数のアーティストによるカバー企画の他、スーザン・ボイルによってカバーされています。後にルー自身もセルフ・カバーしていますから本人にとってもお気に入りの曲なのでしょう。正しいラヴ・ソングですから不思議はありません。

 しかし、この当時のルーは背徳の天使とか暗闇の詩人とかおどろおどろしいイメージで捉えられていましたから、「パーフェクト・デイ」のまっとうな魅力に世間が気づくまでにはずいぶん時間がかかりました。ルー本人も含めてそのイメージに乗っていたのだと思います。

 本作品のジャケット写真はそのイメージ通りです。とりわけ裏ジャケットの写真は衝撃的でした。ドラッグ・クイーンとマッチョ兄さんの二人の立ち姿なのですが、ジーンズ姿のお兄さんの股間が凄い。あまりデザインに凝った風もない配置の写真だけにより際立ちます。

 そういうイメージ戦略も含めて、本作品はボウイとロンソンが解釈するところのルー・リードの世界が展開しています。演奏はぶきぶきとしたサウンドに録音されており、ルーの歌声が際立つ仕様になっています。前作とは異なるこのサウンドが本作を決定しています。

 とりわけぶっきらぼうな「ヴィシャス」に始まり、やけくそなラヴ・ソング「サテライト・オブ・ラヴ」や調子はずれの「ニューヨーク・テレフォン・カンヴァセーション」、チューバが活躍する「グッドナイト・レイディーズ」にシンプルな「ハンギン・ラウンド」と捨て曲がありません。

 それに何といっても「ワイルドサイドを歩け」。一編の映画を撮ることができるほどの物語が素晴らしいです。特徴的なベース・ラインとルーのひときわ深い歌声、そして最後に入るサックス。どこをとってもパーフェクトです。生涯の最高作といってもよい曲かもしれません。

Transformer / Lou Reed (1972 RCA)

*2011年1月10日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Vicious
02. Andy's Chest アンディの胸
03. Perfect Day
04. Hangin' Round
05. Walk On The Wild Side ワイルドサイドを歩け
06. Make Up
07. Satellite Of Love
08. Wagon Wheel ワゴンの車輪
09. New York Telephone Conversation
10. I'm So Free
11. Goodnight Ladies
(bonus)
12. Hangin' Round (acoustic version)
13. Perfect Day (acoustic version)

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar

David Bowie : backing vocal
Mick Ronson : guitar, piano, recorders, backing vocal
The Thunder Thighs : backing vocal
Klaus Voorman : bass
Herbie Flowers : bass, tuba
John Halzey : drums
Barry Desouza : drums
Ritchie Dharma : drums
Ronnie Ross : baritone sax