ティアーズ・フォー・フィアーズは1983年のデビュー作「ザ・ハーティング」がいきなり全英1位を獲得します。そして、2作目となる不朽の名作「シャウト」が世界的なヒットとなります。そして1989年の三枚目「シーズ・オブ・ラヴ」も貫禄の全英1位を獲得しています。

 と、ここまで順調な活動のようにみえるのですが、すでに1枚目の後も2枚目の後も、自分たちの音楽に行き詰まりを感じて活動を休止した期間がありました。完璧主義なのでしょうか、とにかくカート・スミスとローランド・オーザバルのデュオは悩みが深いです。

 その後、ついにカートが脱退、ローランドのソロ・プロジェクトとしてティアーズ・フォー・フィアーズは続きますが、やがて二人は元さやに収まり、2004年に新作を発表します。実に15年ぶりのことです。15年たっても当たり前のように名前が続いているのが凄いです。

 そして、本作です。前作発表後、実に17年が経過しています。この間、ティアーズ・フォー・フィアーズは解散していたわけではなく、マイ・ペースに活動を続けていました。しかし、もともと悩める体質のデュオですから、アルバム自体は難産しました。

 アルバムの制作は2013年に始まり、さまざまな新しいミュージシャンとのコラボを試しながら進んでいきます。そうして、2016年に一度は完成したものの、カートの娘さんの一言「良いけど、もっとうまく出来る若手アーティストがいるよ」でボツになります。

 二人は前のレコード会社からすべての権利を買い取って、自分たちの思うがままにアルバムを作り直しました。そうして出来上がったのが本作品「ティッピング・ポイント」です。作り直すことにしてからすでに6年近くが経過しています。何とも難産でした。

 本作品を制作するにあたって、さまざまな新しいアーティストとのコラボレーションが試されましたけれども、ほとんどは満足いくものではなかったのだそうです。しかし、その中で意気投合したサシャ・スカーベックは本作品の共同プロデューサーに招かれています。

 スカーベックはアデルやジェイムズ・ブラントなどを手がけたことで知られる今をときめくプロデューサーです。他にどんなアーティストがいたのか分かりませんが、スカーベックならばティアーズ・フォー・フィアーズにはいかにも合いそうな気がします。

 そんなこんなで出来上がったアルバムは何とも素晴らしいです。40年近く前のデビューから変らないと言えば失礼ですけれども、どこからどう聴いても、ティアーズ・フォー・フィアーズそのものです。丁寧に練り上げられたメロディーと贅沢なエレクトロニクス・サウンド。

 もともとエレクトロニクスの使い方に定評のあったティアーズ・フォー・フィアーズですから、テクノロジーが進化した環境は理想的です。バンド・サウンドと絶妙に絡み合う上品なエレクトロニクスが素敵です。こういう言い方は好きではありませんが「大人のロック」です。

 カートは本作品について、「我々の内面に深く踏み込むアルバムだし、辛く苦しい感情も込められている。でも、それらにフタをして、心地よいポップ・レコードを作ることは、自分自身に不誠実だと感じた」と実に彼らしいことを語っています。悩みの果ての力作でした。

The Tipping Point / Tears For Fears (2022 Concord)

参照:「ティアーズ・フォー・フィアーズ、17年ぶりの新作アルバム『ザ・ティッピング・ポイント』を語る【前編】」山崎智之



Tracks:
01. No Small Thing
02. The Tipping Point
03. Long, Long, Long Time
04. Break The Man
05. My Demons
06. Rivers Of Mercy
07. Please Be Happy
08. Master Plan
09. End Of Night
10. Stay
(bonus)
11. Sceret Location

Personnel:
Roland Orzabal
Curt Smith
***
Charlton Pettus : guitar, keyboards, programming
Sacha Skarbek : piano
Florian Reutter : programming
Doug Petty : hammond organ, piano, accordion
Carina Round : chorus
Aaron Sterling : drums
Jamie Wollam : drums
Max von Ameln : guitar
Jason Joseph : choir
Charles Jones : choir
Jessi Collins : choir
Lauren Evans : choir