イギリスのプログレッシブ・ロックにおける太い幹の一つ、カンタベリー系の重鎮であったゴングがピエール・ムーランズ・ゴングと改名してから初めてのアルバムとなる「ダウンウインド」です。1979年の発表ですから、時代はパンク/ニュー・ウェイブの真っ只中です。

 ピエール・ムーランはフランス生まれの打楽器奏者です。音楽一家に育ったムーランは現代音楽の世界では有名なストラスブール・パーカッション・グループの創設者ジャン・バティーニュに学び、同グループのツアーに参加するなど実力派として知られます。

 ムーランはフランスのロック・バンドなどで活動した後、デヴィッド・アレンのゴングに参加します。その後、ゴングを出たり入ったりしていたのですが、アレンが脱退してから呼び戻されてゴングを継続します。しかし、当初のゴングとのつながりは薄くなり、バンドは改名に至ります。

 同じカンタベリー系で同様の事情だったソフト・マシーンはまるで別バンドとなった後も名前が継続しますが、ゴングはアレンの哲学色が強かったため、同じバンド名を使い続けることが難しかったのでしょう。両バンドを対比してみると大そう興味深いです。

 本作品は改名するとともにレーベルもヴァージンからアリスタに移籍しています。この当時のアリスタはクロス・オーヴァーないしフュージョン路線に力を入れていた時期にあたり、本作品もそのことを反映してかフュージョン色が強いサウンドになっています。

 メンバーのうち、パーカッションを演奏するピエールとブノワのムーラン打楽器兄弟とニューヨークのベーシスト、ハンスフォード・ロウの三人は前作と同じで、そこに前作にゲスト参加していたフランソワ・コース、ギターに新顔のロス・レコードが加わり5人組となりました。

 そしてゲストが何とも豪華です。まずはマイク・オールドフィールド。ピエールはマイクの大傑作「チューブラー・ベルズ」のプレミア公演でチューブラー・ベルズを叩いており、深い縁でつながっています。そしてスティーヴ・ウィンウッドにミック・テイラー。

 マイクとスティーヴは本作品のタイトル曲のみの参加ですが、これが他の楽曲とは少しテイストが異なり、「チューブラー・ベルズ」のミニマル感覚が表出したコラボ楽曲になっています。カンタベリー系プログレッシブ・ロックの面目躍如たるものがあります。

 対するその他の楽曲は、ゴング仲間のディディエ・マレーブがゲストで参加していたりはするのですが、アレンのゴングのようなサイケデリックなプログレというよりも、フュージョン系のサウンドに寄った楽曲となっています。バンドの力量があるだけにそれも様になります。

 全編がインストゥルメンタルの前作とは異なり、本作品ではまず一曲目「エアロプレイン」にピエールのボーカルが入ります。ボーカルはサンタナのカバー「ジン・ゴー・ロ・バ」やテイラーが参加している「ホワット・ユー・ノウ」でも入ります。商業面も期待されていたのでしょう。

 過去のしがらみから離れて聴けば、パーカッションの響きも麗しい華麗なサウンドが素敵に響きます。もともとクロスオーバーなプログレですから、ジャズとのフュージョンとは親和性が高く、アリスタ・レコードがこのバンドに目をつけたのも当然のことでした。

Downwind / Pierre Moerlen's Gong (1979 Arista)



Tracks:
01. Aeroplane
02. Crosscurrents
03. Downwind
04. Jin-Go-Lo-Pa
05. What You know
06. Emotions
07. Xtasea

Personnel:
Pierre Moerlen : drums, vibraphone, marimba, concert toms, timpani, organ, synthesizer, piano, percussion, synthesizer, vocal
Benoît Moerlen : vibraphone
Hansford Rowe : bass
François Causse : percussion
Ross Record : guitar, vocal
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Didier Malherbe : sax
Didier Lockwood : violin
Mike Oldfield : guitar, bass, Irish drum
Steve Winwood : synthesizer
Terry Oldfield : flute
Mick Taylor : guitar