ナイン・インチ・ネイルズはミニストリーとともにインダストリアル・ロック・バンドの代名詞のようなバンドです。どんな音楽がインダストリアル・ロックかといえばナイン・インチ・ネイルズのようなサウンドという答えが返ってくるようなバンドだということです。

 本作品はナイン・インチ・ネイルズが1989年に発表したデビュー作「プリティ・ヘイト・マシーン」です。何だかややこしいのですが、この時点でのナイン・インチ・ネイルズはトレント・レズナーたった一人のバンドです。バンドにこだわる人なので別名義とは言いずらいです。

 レズナーは生まれ故郷のクリーヴランドにあるスタジオでエンジニアとして働きますが、そのスタジオでオーナーの理解を得て終業後にデモ作品を制作します。大たい深夜2時から朝の8時までとのことですから根性があります。まだ20代前半ですから体力もありました。

 ドラムの音はすべてが彼のレコード・コレクションからサンプリングされています。そこにシンセサイザーを中心としたサウンドを加えてデモ音源が出来ています。この頃のシンセはもはやピコピコ、シャワシャワではありませんでした。ダークな重いサウンドもばっちりです。

 デモ・テープを売り込んだレズナーはTVTなるレーベルと契約を交わして本作品が発表されることになりました。デモ音源はまだ1980年代風シンセ・ポップ的なニュアンスがあったようですが、出来上がった作品はよりダークで攻撃的なサウンドでした。

 後の作品群に比べるとポップだと言われる本作品ですが、レーベル側は驚いたそうです。結果的にプロモーションもきちんとなされず、後々までレーベルとナイン・インチ・ネイルズの間に生じた溝は埋まらないままとなります。見る目がなかった話として語り継がれそうです。

 本作品はレズナーが一人で仕上げたそうですが、プロデューサーにはデペシュ・モードなどで有名なフラッド、ダブ男エイドリアン・シャーウッド、さらにシャーウッドもかかわるタックヘッドのキース・ルブラン、耽美派ディス・モータル・コイルのジョン・フライヤーが名を連ねています。

 こう並べるとインダストリアル・サウンドの系統がみてとれるような気がします。ダークな電子音楽を使ったロックそのまんまです。これが一人でできるようになったということが、私などには驚きでした。やはりサンプリング技術の向上が革命的でした。

 レズナーによれば、たとえばアルバム中の一曲「テリブル・ライ」のドラムなどはすべてどこかからそのままもってきたそうです。もはや言われても気づきません。この頃はサンプリングの是非が議論されていましたが、確実に音楽の可能性を広げました。私は肯定派でした。

 本作品にはナイン・インチ・ネイルズの代表曲として今もなお人気がある「ヘッド・ライク・ア・ホール」や「ダウン・イン・イット」など粒ぞろいの楽曲が並んでいますし、四人のプロデューサーとの共同作業でゴージャスなサウンドが実現した傑作だと思います。

 本作品は全米ヒットチャートでは75位が最高位ですが、その後も長く売れ続け、結果的にはトリプル・プラチナ・アルバムとなっています。先達がいないわけではありませんけれども、ナイン・インチ・ネイルズの強烈なサウンドは音楽地図を塗り変えたのでした。

Pretty Hate Machine / NIne Inch Nails (1989 TVT)



Tracks:
01. Head Like A Hole
02. Terrible Lie
03. Down In It
04. Sanctified
05. Something I Can Never Have
06. Kinda I Want To
07. Sin
08. That's What I Get
09. The Only Time
10. Ringfinger
(bonus)
11. Get Down Make Love

Personnel:
Trent Reznor : vocal, production