プリンス待望の新作でした。まさかの2枚組です。何とか1枚に収まる長さなのに、殿下の意向で2枚組とされたと聞いたことがありますが、80分近くありますので、そんな言い方をするほどではないように思いました。わがままですから何でも話題になります。

 この作品をプリンスの最高傑作にあげる人も多いですが、またまた意見が分かれる作品でもあります。しかし、かなり人の意見が一致しているのはプリンス全盛期最後の傑作というものです。そんなことで意見が一致するのは何とも残念な話ではあります。

 私はプリンスの中ではこのアルバムを一番よく聴きました。それほど入れ込んだおぼえはないのですが、気が付けばいつまでもずるずると聴いているというアルバムです。今でも時々プリンスを聴きたいなと思うと、行きつく先はこのアルバムです。

 この作品は、レボリューションを解散させて、久しぶりにソロ名義で制作したアルバムです。レボリューションとのライブ録音も一曲入っていますし、当時人気絶頂にあったシーナ・イーストンとのデュオも話題を呼びましたが、基本はワンマン・レコーディングです。

 一番活躍しているのは、当時の最先端だったドラム・マシーンとフェアライトのサンプラー。やっぱり機械は裏切らないということでしょうか。プリンスはあまり周りの人を信じない人のようです。テクノロジーの進化なくして現れなかった人かもしれません。

 アルバムの何曲かでカミーユという高い声の歌手が歌っています。発売当時は不思議に思ったものですが、もちろん殿下本人です。初期の頃はみんなカミーユでしたね。プリンスの良い側面の化身だそうで、この化身を中心にしたプロジェクトが当時進行中でした。

 同時に、レボリューションのドリーム・ファクトリーというプロジェクトも進めていて、これらを集めた「クリスタル・ボール」という3枚組の長大なアルバムを制作する予定だったんだそうです。当然、レコード会社は反対、結果としてこの2枚組に落ち着いたということです。

 よっぽどアイデアが頭の中に渦巻いていたんでしょうね。未知の新曲が終始耳の奥で鳴り響いていたに違いありません。その夢幻音をサンプラーにストックされている音源から拾いあげて曲を紡いでいったようなものです。20年先を行っていたともいえます。

 当時のプリンスはどんどん湧いてくるアイデアの嵐の中で高速回転していたようです。天才というのはこういう人のことです。もはや音楽の神様の預言者のような存在です。迸るアイデアを曲にしてしまえば練り上げることすらもどかしい。そんな高速感を感じます。

 当然、このアルバムにはプリンスの作品の中でも最もバラエティーに富んだ曲がつまっています。ポップからファンク、ラップ、ロック、ジャズと目まぐるしく変わります。それでいて他に考えられない曲順となっていて、構成力も素晴らしい。天才は何をやっても凄いです。

 私は、特に2枚目の後半、「ストレンジ・リレイションシップ」から「アドア」に至る流れが大好きです。もはやリズムのみをバックに唸る殿下の姿は最強です。ぐちゃぐちゃなジャケットとともにありとあらゆるプリンスが姿を見せています。2枚組でも短すぎる。

Sign of the Times / Prince (1987 Paisley Park)

*2011年2月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc 1)
01. Sing Of The Times
02. Play In The Sunshine
03. Housequake
04. The Ballad Of Dorothy Parker
05. It
06. Starfish And Coffee
07. Slow Love
08. Hot Thing
09. Forever In My Life
(disc 2)
01. U Got The Look
02. If I Was Your Girlfriend
03. Strange Relationship
04. I Could Never Take The Place Of Your Man
05. The Cross
06. It's Gonna Be A Beautiful Night
07. Adore

Personnel:
Prince
***
Sheena Easton : vocal
Erick Leeds : sax
Atlanta Bliss : trumpet
Susannah : vocal
Wendy : guitar, tambourine, conga, backing vocal
Lisa : sitar, wooden flute, backing vocal
Sheila E : drums, percussion
Jill Jones : vocal
Mico Weaver : guitar
Greg Brooks, Wally Safford, Jerome Benton : backing vocal