もう自分の写真には飽きただろうと言っていたプリンス殿下ですけれども、あっという間に自画像が復活しました。しかもモノクロで濃厚な写真です。ジャケットの方向はこれが正しいのかどうか諸説あるようですが、縦でも横でも濃いものは濃いです。

 たった1年でまたまたプリンスの会心作「パレード」です。凄いねえ、と言いながら買ったCDです。この頃はCDが主流になり始めた頃だったので、まだCDに全面的な信頼をおいておらず、CDのせいでリズムが歪んで聴こえるのかと思ったりもしました。懐かしいです。

 この頃のプリンスは神がかっておりました。日本の音楽評論家の間でも絶賛の嵐でした。この初版日本盤CDは渋谷陽一さんの対談解説。彼らしく理知的に分析しながらも「最近私はほとんど宗教のように、プリンスを崇め奉ってますからね」とはしゃいでいらっしゃいます。

 そして、「音楽に対する全面的肯定的意思、音楽のクォリティを上げていくこと自体が何かであるという、そういう信頼ね」とおいて、私たち「このレコードを買った人は自分の感性に全面的な信頼をおいてもいいです」、「あなたの勝ちです」と断言して頂いています。

 中村とうようさんも満点。ジョン・レノンの「ジョンの魂」を引き合いにだして、「余計な飾りを削ぎ落として肝心のことだけをストレイトに突きだしてくるところ」と「音楽が裸で聞き手に立ち向かうときに音楽家のなまなましい肉体を感じさせる」ところがそっくりだと誉めています。

 とまあそんな雰囲気に包まれていたわけです。そういう若干インフレ気味の高揚感の中での経験でしたから、余計にこの作品を聴きこんだものでした。スカスカの音づくりであるがゆえに、確かにその一つ一つがとても興味をそそられるものでしたし。

 この作品は、「パープル・レイン」同様、自分の映画のサウンドトラックということで、起承転結がはっきりしていて、全体に作品としての一体感が高いです。バラエティーに富んだ曲作りですが、どの曲も当たり前のように質が高いですし、曲順も完璧。見事です。

 収録曲のうちでは、「キッス」が全米1位となっています。「パープル・レイン」の「ビートに抱かれて」に相当する変な曲ですけれども、とてもキャッチーな名曲です。こんな曲をよく思いつくというか、よくやってみようという気になるなという意表をついた曲です。

 私はそれこそこのアルバムを、アルバム全体が一つの曲のように思えるほど何度も何度も聴きこんだものです。中でも「キッス」から「アナザー・ラヴァー」、「スノウ・イン・エイプリル」の流れは鳥肌ものでした。まさにプリンス劇場といえる濃密さ。

 全米1位こそ逃したものの、大ヒットしましたし、プリンスの最高傑作だと言ってもおかしくはないと思いますが、殿下ご本人の評価は至って低いもののようです。その最大の要因は映画がこけたことだと言われています。映画作りは天才とはいかないようです。

 久しぶりに聴いてみて、どこかよそよそしいものも感じました。なまなましい肉体は感じるけれども、それが遠くもある。なんででしょう。エゴが強烈すぎるからでしょうか。映画がこけてもラジー賞を総なめにしたように、のめり込めなくなっても、ほってはおけない。

Parade / Prince & the Revolution (1986 Paisley Park)

参照:ミュージック・マガジン86年6月号

*2011年2月23日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Christopher Tracy's Parade
02. New Position
03. I Wonder U
04. Under The Cherry Moon
05. Girls & Boys
06. Life Can Be So Nice
07. Venus De Milo
08. Mountains
09. Do U Lie?
10. Kiss
11. Anotherloverholenyohead
12. Sometimes It Snows In April

Personnel:
Prince : vocal, other instruments
Clare Fischer : orchestra arrangement
Mazarati : chorus
Sheila E. : chorus, cowbells, drums
Lisa : chorus
Susannah : chorus
Wendy : chorus
Jonathan melvoin : drums
Marie France : voice
Eric Leeds : horn
Atlanta Bliss : trumpet
Mico : guitar
Sandra Francisco : little gypsy girl