「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」から1年後に発表されたロバート・フリップの三枚目のソロ・アルバムが本作品「レット・ザ・パワー・フォール」です。前作は明確に二つのパートに分かれていましたが、今回はそれが2枚に分かれました。拡張版ともいえる作品です。

 本作品は前作ではA面にあたるフリッパートロニクス・ライヴの記録です。前作のB面に相当するのはほぼ同時期に発表された「リーグ・オブ・ジェントルメン」で、そちらはバンド仕様になっています。よほど前作に手ごたえを感じていたのでしょうね。

 というわけで本作品は前作の半分と同様に、1979年の4月から8月に行われた「ドライヴ・トゥ1981」と題されたフリッパートロニクス・ツアーの記録です。収録された全6曲はフリップ御大らしくいずれも公演の場所と日付がしっかり分かっています。

 フリップはよほどツアーが気に入ったようすです。「12年にわたるツアー人生の中で、このアルバムの元となったフリッパートロニクス・ツアーは最も過酷で、最も意図的で、やりがいあるものだった。唯一、後悔なく思い出せるツアーとも言える」とは本人の弁です。

 収録された楽曲は「1984」から「1989」まで順番に番号が割り振られています。一瞬、演奏された年のことかと思ってしまいますけれども、いずれも未来日付です。最初に配置されているのが「1984」とされているところが意味深長です。

 「1984」といえばご存じの通り、ジョージ・オーウェルの未来小説のタイトルです。ビッグ・ブラザーによる超管理社会を予言した書として、1984年が過去のものとなった今でもその重要さはまるで変っていません。フリップにとってビッグ・ブラザーは音楽業界でしょうか。

 アルバムの位置づけは「ドライヴ・トゥ・1981」とする1981年までの三か年計画における「レコーディング義務を完了させる」ものです。次は「ディシプリン」となり、1984年に向けた新しい三か年計画が始まるということになります。ここでも1984年が出てきます。

 見事に計画的なアーティストです。自分の活動がしっかりと体系づけられ、整理されています。時にそのイメージが自縄自縛となっている気もしますけれども、それがキング・クリムゾン=ロバート・フリップのイメージそのままですからしょうがありません。

 サウンドもとてもきっちりしています。テープとギターを組み合わせたフリッパートロニクスのサウンドはまったく揺らがず、一色しかない音色がサイバーに響いてきます。一般にはアンビエント作品とされているのですが、イーノ的なアンビエントとはニュアンスが異なります。

 音の響きが抑えられ、奥行きに乏しいサウンドは自己主張が激しいです。表面的には静かな曲ばかりなのですが、とてもにぎやかで無視するわけにはいきません。そのフリッパートロニクスによる作品だけですから、かなり緊張を強いる作品です。プログレらしいです。

 なお、見るものを不安に陥れる印象的なジャケットは、レモン・キトゥンズからソロとして活躍しているダニエル・ダックスの手になるものです。フリップのサウンドと心象風景を描き出して秀逸です。フリッパートロニクスを堪能する時のお供はこれ以上望めません。

Let The Power Fall / Robert Fripp (1981 EG)

見当たらず。悪しからず。

Tracks:
01. 1984
02. 1985
03. 1986
04. 1987
05. 1988
06. 1989
(bonus)
07. 1984 (single edit)
08. 1984 (mix 1)
09. 1984 (mix2)

Personnel:
Robert Fripp : guitar, Frippertronics