「艶めく顔立ちに際立つ存在感、新たなレゲエ・アイコンとして、本作リリース前から世界中を席巻してきた」マスティヤフの「衝撃デビュー作『ユース』に新録を追加した進化盤「ユース2.0」です。何やらややこしそうな背景のアルバムのようですね。

 「ユース」はマティスヤフのメジャー・デビュー作として2006年3月に米国で発売され、日本でもめでたく6月に日本盤が発売されています。本作品は日本盤発売から半年後に発表された日本特別編集盤です。新録音が3曲追加され、ボーナス曲が整理されたものです。

 オリジナルは全米レゲエ・チャートやi-Tunesチャートなどで1位を記録しており、米国のメインストリーム・チャートでも4位と大健闘しています。日本でもこういう特別編集盤が発売されるということは手ごたえがあったということなのでしょう。芸が細かいです。

 マティスヤフは大変話題の多いアーティストです。まず、彼はユダヤ系アメリカ人でユダヤ教徒です。それもかなり自覚的で、マティスヤフはユダヤ教をモチーフにしたメッセージを歌にこめています。実際にユダヤ教の聖典である旧約聖書からの引用が目立ちます。

 また、マティスヤフの師匠は明らかにボブ・マーリーです。マーリーの「メッセージは普遍的なもので、生きているものならだれもが共感できる」とぞっこんで、マティスヤフのサウンドは基本的にはマーリーのようにルーツ・レゲエを下敷きにしたものです。

 一方、気になるのは彼の両親がデッド・ヘッズだったということです。言わずと知れたグレイトフル・デッドのコンサートを追いかける人々です。彼らは多くの場合、子どもも同伴でライヴ会場に足を運びますから、マティスヤフも幼少の頃からデッドに親しんでいたことでしょう。

 レゲエとデッドは一見相反するようですけれども、レゲエのライヴとデッドのライヴはどちらもおおらかで緩いところがそっくりですし、双方のファンは行き来があってもおかしくはありません。サウンドへのデッドの影響はあからさまではありませんが、気になる話ではあります。

 さて、「ユース2.0」では「エルサレム」が新録音に差し替えられた他、2曲の新録曲が追加されました。そのうちの一つはザ・ポリスの「メッセージ・イン・ア・ボトル」です。本家ポリスよりもレゲエ度は強めですが、この曲を選ぶあたりにマティスヤフの立ち位置がよく表れます。

 一方、「エルサレム」の新録はスライ&ロビーをフィーチャーしたバージョンです。全体にマティスヤフのレゲエ・サウンドは、ヒップホップやR&B、ロックなどとのミクスチャー度がちょうど良い加減です。スライ&ロビーの雑食感とも親和的です。

 マティスヤフのボーカルを支えるのはプロデューサーのビル・ラズウェルを驚愕させたという若手三人組のルーツ・トニックです。マティスヤフのレゲエとしての強みはこの三人のはつらつとした演奏にあると言ってもよいのではないでしょうか。

 廃墟系近未来SFの光景のなかに佇むマティスヤフを描いたジャケットは「ユース」のレゲエ・スター然としたジャケットとは大きく異なります。言葉数が多いマティスヤフの音楽世界は人気のない殺伐とした情景と並ぶと意味深長です。果たして言葉は届くのか。

Youth 2.0 / Matisyahu (2006 Epic)



Tracks:
01. Jerusalem (Out Of Darkness Comes Light)
02. Fire Of Heaven / Altar Of Earth
03. Youth
04. Time Of Your Song
05. Dispatch The Troops
06. Indestructible
07. Chop 'Em Down
08. Message In A Bottle
09. What I'm Fighting For
10. Warrior
11. WP
12. Shalom / Saalam
13. Late Night In Zion
14. Unique Is My Dove
15. Ancient Lullaby
16. King Without A Crown

Personnel:
Matisyahu : vocal
***
Roots Tonic
Aaron Dugan : guitar
Josh Werner : bass, keyboards
Jonah David : drums
Marlon "Moshe" Sobol, Stan Ipcus , Yusu Youssou, Sly Dunbar, Robbie Shakespeare: