ロバート・フリップは「エクスポージャー」を発表した後、「ドライヴ・トゥ1981」として、ツアーを行いました。このツアーは音楽業界に大いに疑いの目を向けるフリップらしく、通常のライヴ・ツアーとは様相を異にし、「市場の価値に支配されない市場において」行われました。

 具体的には、フリップが運転手兼マネジャーとたった二人で1979年4月から8月にかけて欧米諸国を巡り、レコード店やオフィス、食堂、公共スペース、プラネタリウムなどありとあらゆる場所でフリッパートロニクスを使った即興演奏を繰り広げるというものです。

 フリッパートロニクスは簡単にいうと、フリップがギターを演奏し、その音を二台のテープレコーダーを使ってその場でループさせ、サウンドを発展させていく装置です。ブライアン・イーノが「ディスクリート・ミュージック」で使った手法と同様です。

 狭い会場で観客と膝を突き合わせて演奏したことは、スターとファンという立場ではない観客とのコミュニケーションを生じさせ、そのことがアンチ音楽業界のフリップ御大にはカタルシスをもたらしたようです。さすがは音楽を考え抜いているフリップ先生です。

 本アルバムはそのツアーで録音された音源を用いた作品で、半分は「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」と名づけられました。言わずと知れた英国国歌です。観客から米国国歌をリクエストされたことに対し、英国国歌の冒頭の音から即興演奏を繰り広げたことが命名の理由です。

 レコードではA面にあたる「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」は同名曲を含む3曲で構成されており、いずれも上記ツアーからの生のフリッパートロニクス・サウンドが収録されています。フリップの機械の音のようなギター音がさまざまにループされていく、単色の世界が続きます。

 B面は「アンダー・ヘヴィ・マナーズ」と題されており、こちらはツアーで生成されたフリッパートロニクスのループ・サウンドをディスコ・ビートと融合させたサウンドです。「ドライヴ・トゥ1981」の次のフェーズにあたるというのが本人の解説です。

 参加しているのはイーノのソロ・デビュー作以来の仲だというベースのバスタ・ジョーンズと彼が推薦したドラムのポール・ダスキンの二人のリズム隊です。加えてタイトル曲にはトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンがボーカルで参加しています。

 全部で2曲収録です。どちらも生ドラムとベースによるファンキーなディスコ・ビートが延々と反復していきます。彼らはフリッパートロニクスによるループにのせて演奏しているのだそうです。フリッパートロニクスのテクニカルな反復とマニュアルによる反復の融合です。

 バーンはいつもより低いキーで歌う冒険をしています。彼のボーカルの痙攣的ビート感覚がちょうどこのサウンドにマッチしていて素晴らしい効果をあげています。まるで、A面のアンビエント的なサウンドとB面の激しいビートの同居を象徴するかのような人選です。

 ひょうひょうと繰り出された本作品は発表から時間がたてばたつほどその真価を発揮してきたように思います。今なら彼が本作にと考えていた「ミュージック・フォー・スポーツ」というタイトルも素直に受け取られます。爽快なサウンドが素敵です。

God Save The Queen / Under Heavy Manners / Robert Fripp (1980 EG)



Tracks:
01. Red Two Scorer
02. God Save The Queen
03. 1983/1983
04. Under Heavy Manners
05. The Zero Of The Signified
(bonus)
06. God Save The King
07. Music On Hold

Personnel:
Robert Fripp : guitar, Frippertronics
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Busta Jones : bass
Paul Duskin : drums
Absam el Habib (David Byrne) : vocal