プリンスは前作を発表してからリック・ジェームズのオープニング・アクトとして2か月に及ぶツアーに出ています。それまでにはローリング・ストーンズの前座経験もありますが、ジェームズの方がやりやすかったことでしょう。ストーンズの時には悔し涙も流したそうですし。

 しかし、ミック・ジャガーはプリンスの才能を高くかっており、ブーイングする客の無理解を嘆いています。一方、余裕のミックとは違って、客層がかぶるジェームズの方はプリンスの力量に平静ではいられなかった様子です。オープニング・アクト選びの塩梅は難しいです。

 プリンスの三枚目となる「ダーティー・マインド」です。本作品の制作に先立って、プリンスは居宅に16トラックのスタジオを設けました。いよいよ24時間レコーディングに没頭できる環境が整ったわけです。そこで録られた本作品は記念すべき作品といえます。

 ジャケットがまたいっちゃってます。黒パンを履いただけの全裸の上にジャケットを羽織るという誰もが思い浮かべるプリンスの姿がここに登場しました。歌詞の内容もますます直截に猥褻になってきましたし、まさにプリンスのイメージが確立してきました。

 さらに本作品には初めてがいろいろあります。これまでまったく一人ですべての歌と演奏をこなしてきましたけれども、本作品ではシンセサイザーでドクター・フィンク、そしてコーラスにリサ・コールマンの名前がクレジットされました。一人へのこだわりもなくなりました。

 他にも後にザ・タイムを結成するモーリス・デイや幼馴染のアンドレ・シモーンなどがかかわったと言われています。クレジットはされておらず、後にいろいろとややこしいことになるそうです。こうしたややこしい場外模様もまた本作品が初めてかもしれません。

 そして、ファルセットへのこだわりも少し溶けてきました。ほんの少しですけれども、最後の曲「パーティーアップ」では地声が聴こえてきます。他の曲でもコーラス的にわずかですが使われています。こうしたこだわりの溶解は自信の表れでしょう。

 本作品は24時間使用可能な自宅スタジオで制作したにもかかわらず、まるでデモ音源のようです。そこもまたプリンスらしいです。ぺらぺらのシンセ・サウンドとむき出しのファンキーなリズムにファルセット・ボーカルと、演奏は至ってシンプルです。

 しかし、プリンスはまるで魔法使いのようです。こんなにシンプルなリズムが反復されるだけなのにどうしてこんなにかっこいいんでしょう。そしてなまめかしい。プリンスの魅力はここに全貌を現したといってよいでしょう。プリンスの時代を画するアルバムです。

 従来のソウル、R&B、ファンクにニュー・ウェイヴ的な要素を持ち込み、一方でシンディ・ローパーがカバーしたことで有名な「君を忘れない」などビートルズ的な曲までさらりと挟みこむ。アーティストや評論家から絶賛されたことも自然に受け止められます。

 一方、商業的には前作に及びませんでした。全米チャートでは45位どまりです。しかし、そんなことは関係ありません。結局、本作品もプラチナ・アルバムとなっていきます。プリンスの魅力がさく裂した、キャリアの中でも重要な位置を占める作品です。

Dirty Mind / Prince (1980 Warner Bros.)



Tracks:
01. Dirty Mind
02. When You Were Mine 君を忘れない
03. Do It All Night
04. Gotta Broken Heart Again
05. Uptown
06. Head
07. Sister
08. Partyup

Personnel:
Prince : vocal, instrumentation
***
Lisa Coleman : chorus
Doctor Fink : synthesizer