「1979年、太陽と戦慄クリムゾン解散後の長い沈黙を破りプログレ界の最重要人物、ロバート・フリップが発表した初のソロ・アルバム」です。パンク/ニュー・ウェイブ勢によってプログレが過去の遺物とされていた時期に敢然と発表されました。

 プログレ低迷期でしたから発売当時はさほど話題になりませんでしたけれども、全体に北極といいますか、とても冷ややかな空気を醸し出していて、私のつぼにはまりました。当時からとてもよく聴いていたアルバムで、私は今でもフリップの最高傑作だと信じています。

 さて、本作品はとてもややこしいことになっています。まず1979年に発表された初版があります。次いで1983年にリミックスされた第三版があり、さらに2022年にスティーヴン・ウィルソンが新たにミックスした第四版が発表されています。

 初版と第三版があるので第二版もあると思うのですが、そもそも初版が作り直されているので初版が第二版扱いではないでしょうか。そうすると、本当の初版はワーキング・タイトルを「ラスト・オブ・グレート・ニューヨーク・ハートスロッブス」というお蔵入り版となります。

 何が違うかといいますと、ダリル・ホールのボーカルです。ホールがボーカルをとった曲が初版では2曲、第三版では7曲と増加しています。ホールのマネジメントから、ホールのイメージにそぐわないとしてクレームがついたため、初版では大幅に削られてしまいました。

 このため、お蔵入り版からボーカルを差し替えて発表したものが初版です。第三版ではホールのボーカルの多くが復活し、さらにトラックにリミックスが施されています。その後も第三版と第四版の間にでフィニティブ・エディションがあったりもします。ややこしいです。

 さらにこの当時フリップがプロデュースしたホールのソロ・アルバムが発売中止になっています。こうした仕打ちを受けてフリップは音楽業界に怒り心頭です。本作品はホールのソロ、ピーター・ガブリエルのセカンドとまとめて三部作となるはずだったのに本当にひどい話です。

 さて、アルバム自体は、フリッパートロニクスというフリップが発明した機材を使った静かな演奏やホールが歌うポップな楽曲、ガブリエルの熱いボーカルを聴かせる曲、トニー・レヴィンとナラダ・マイケル・ウォルデンとのトリオによるクリムゾンを彷彿させる楽曲など多彩です。

 フリップは精神世界の指導者グルジェフに師事していましたが、ここではその後継者でもあるJGベネットが登場します。この当時は世間に神秘主義思想が結構浸透しており、私もその登場を素直に受け止めておりました。ベネットの説法を使った曲はなかなか素敵です。

 よく聴くと普通にまとまった楽曲ばかりなのですが、さまざまなセッションでの成果の断片を切り取ってコラージュしたようなイメージが残ります。そこを神秘思想的にまとめあげている、そんな佇まいが何ともいえず素敵です。こんな作品はあまり見たことがありません。

 「事実上、どう考えても私の唯一のソロアルバムなわけだ。混じり気なしの本物であり・・・驚くほどの成果である。そう思っているよ」とフリップは自信満々です。彼のキャリアの中でも特異な位置を占めるアルバムです。さらに彫琢して第五版、第六版がでても驚きません。

Exposure / Robert Fripp (1979 EG)

*2011年8月23日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one) Exposure (First Edition)
01. Preface
02. You Burn Me Up I'm A Cigarette
03. Breathless
04. Disengage
05. North Star
06. Chicago
07. NY3
08. Mary
09. Exposure
10. Häaden Two
11. Urban Landscape
12. I May Not Have Had Enough Of Me But I've Had Enough Of You
13. First Inaugural Address To The I.A.C.E. Sherborne House
14. Water Music I
15. Here Comes The Flood
16. Water Music II
17. Postscript
(disc two) Exposure (Third Edition)
01. Preface
02. You Burn Me Up I'm A Cigarette
03. Breathless
04. Disengage II
05. North Star
06. Chicago
07. New York, New York, New York
08. Mary
09. Exposure
10. Häaden Two
11. Urban Landscape
12. I May Not Have Had Enough Of Me But I've Had Enough Of You
13. First Inaugural Address To The I.A.C.E. Sherborne House
14. Water Music I
15. Here Comes The Flood
16. Water Music II
17. Postscript
(bonus tracs, alternative takes)
18. Exposure
19. Mary
20. Disengage
21. Chicago
22. NY3

Personnel:
Robert Fripp : guitar, Frippertronics
***
Barry Andrews : organ
Phil Collins : drums
Brian Eno : voice, synthesizer
Peter Gabriel : vocal, piano
Daryl Hall : vocal, piano
Peter Hammill : vocal
Tony Levin : bass
Jerry Marotta : drums
Sid McGinnis : pedal steel, guitar
Terre Roche : vocal
Narada Michael Walden : drums
Edie Fripp : voice
J.G. Bennett : voice
Shivapuri Baba : voice