ツトム・ヤマシタによる「ゴー」プロジェクトの続編、「ゴー・トゥー」です。この後は、「ゴー・オン」というアルバムが構想されていたといいます。他にも「ゴー・アウト」や「ゴー・バイ」とか、候補には事欠きませんから、もっと続けて欲しかったところです。

 ヤマシタは「ゴー」を発表後、アルバム再現コンサートも大成功をおさめ、そのライヴ盤まで発表されました。そんな中で新たにロンドンで録音されたのが続編となる本作品です。リリースは新たに契約したアリスタからです。アイランドと何かもめたんでしょうかね。

 前作が「宇宙に存在していた人間が何か見えないものに引かれ地球に向かう旅の過程」を描いたコズミックな叙事詩だったのに対し、本作品は宇宙からやってきた人々のあいだに生まれた愛をテーマとしています。宇宙がからんでいますが地上の物語です。

 その対比は結構際立っていて、前作がスペース・オペラだったのに対し、本作品はファンキーでとても地上的です。同じようにシンセサイザーが使われているのですが、こちらはスペーシーというよりファンキーです。クラウス・シュルツェだとすると驚きです。

 豪華プロジェクト・メンバーのうち、残ったのはシュルツェを始め、マイケル・シュリーヴやアル・ディメオラ、コンガのブラザー・ジョンソンなどで、目玉となっていた一番のスーパースター、スティーヴ・ウィンウッドの顔が見られないのは何とも残念です。

 しかし、その穴を埋めるボーカリスト二人のうちの一人がリンダ・ラークだというところが嬉しいです。クラブ・シーンで再評価されているアルバム「ラーク」を作った素敵なボーカリストです。もう一人は渋いブルー・アイド・ソウルのシンガー、ジェス・ローデンです。

 他にも新しいメンバーが多数参加していて、それがみな腕達者ばかりです。そんなメンバーによるしっかりした隙のない演奏が続きます。コンセプト・アルバムとはいえ、前作に比べるとストーリー性は薄く、各楽曲がそれぞれ独立しているため、余計に演奏が際立ちます。

 今回も音の組み立てがどこか現代音楽的で、ファンキーなのに暑さを感じさせないクールなジャズ・ロックが奏でられます。中では私は少し暑苦しい「愛の神秘」がお気に入りです。どことなく歌謡曲を思わせる節回しが和の要素をもたらしていて素敵なんです。

 ところで、本作品のジャケットは私が慣れ親しんだものではありません。日本では裸の男女を背景に、「GO」のオブジェが真ん中にあしらわれていました。全体に茶色くてファンキーが強調されていた見事なものでした。こちらは表現に厳しい米国版です。残念です。

 ヤマシタは本作品をもってポピュラー音楽の世界からは去ってしまいました。彼は当時を「全てのジャンルにおいて自分が最高であると思い込み、その結果他人の作品がすべてつまらなく見えた。つまり感動を失ってしまったのだ」と振り返っています。

 ポップスの無限の可能性を否定するもので、総スカンを食いそうなコメントです。若気の至りを振り返ったにしても勇気あるカミングアウトだと思います。ここに至るには仏の世界での精神修養などがありました。ヤマシタの音楽はもちろんこれで終わりません。

Go Too / Stomu Yamashta (1977 Arista)

*2013年6月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Prelude 序章
02. Seen You Before 再会
03. Madness 狂気
04. Mysteries Of Love 愛の神秘
05. Wheels Of Fortune 運命の轍
06. Beauty 美
07. You And Me 男と女
08. Ecliptic 月蝕

Personnel:
Stomu Yamashta : percussion, synthesizer
Al Dimeola : guitar
Doni Harvey : guitar
Paul Jackson : bass
Brother James : congas
Linda Lewis : vocal
Peter Robinson : keyboards, synthesizer
Jess Roden : vocal
Klaus Schulze : synthesizer
Michael Shrieve : drums
Liza Strike, Doreen Chanter, Ruby James : chorus
The Martin Ford Orchestra
Paul Buckmaster : orchestral arrangement