当時はもう出ないのではないかと思われていたので、驚きをもって受け止められたニュー・オーダーのアルバム「リパブリック」です。前作「テクニーク」から4年以上が経過し、メンバーの不仲が噂される中、解散説がしきりに流れていたニュー・オーダーでした。

 当時、ニュー・オーダーのメンバーはそれぞれがソロ活動に入っていました。ピーター・フックとバーナード・サムナーはそれぞれバンドを結成していますし、残されたスティーヴン・モリスとジリアン・ギルバートはジ・アザー・トゥーという皮肉なユニット名でアルバム制作を始めます。

 しかも、サムナーはザ・スミスのジョニー・マーとのユニットです。とりわけフックとサムナーの不仲説が強かったですから、これはもう元のさやには収まるまいと多くの人が思ったとしてもおかしくありません。ニュー・オーダーとなってからでも12年ですから潮時でもありました。
 
 そんな彼らを突き動かしたのはジョイ・ディヴィジョン/ニュー・オーダーとは切っても切れない間柄にあるファクトリー・レコードの倒産とクラブ・ハシエンダの経営危機です。ニュー・オーダーのバンド・メンバー自身も保証人になっていたそうで、事態は深刻です。

 ここは一発ヒット作品を作らないと大変なことになってしまうという追い詰められた状況です。そうなるとさすがに仲が悪いだのなんだの言っていられません。メンバーは一念発起して再集結し、本作品「リパブリック」が制作されたのでした。

 そんな事情があるとはつゆ知らず、私などは無邪気に喜んでおりました。それに先行シングルとなった「リグレット」がまた名曲でした。サムナーの晴れやかなギターで始まり、フックの力強いベース・ラインにもこもこしたサウンドの雲がかかります。

 ここに、サムナーの曖昧なボーカルがこれぞニュー・オーダーの哀愁のメロディーを歌うわけですからたまりません。まるで自分たちの魅力だと自覚している要素をすべて織り込んだような楽曲です。ヒットさせるのだという強い意思が作り上げた名曲でしょう。

 そのかいあって、「リグレット」は英国では4位、米国でも28位と望み通りのヒットを記録したのでした。とりわけ米国でのこの順位はこれまでの最高位でした。ニュー・オーダーのキャリア全体を通じてベストに挙げる人もいるのもよく分かる渾身の一曲でした。

 アルバムは全体にシンセサイザーが厚めのサウンドになっています。ウォール・オブ・サウンド的なシンセによる音の雲が全体を覆っている感じです。バンドのアンサンブルもしっかりはしているのですが、どちらかといえばサムナー寄りのサウンドです。

 もちろんアルバム全体も英国では1位、米国でも11位とヒットを記録しており、アルバムからは4曲ものシングルがカットされていて、背景事情を偲ばせます。まずはよかったわけですけれども、こういう無理はたたります。結局、バンドが元さやに戻ることはできませんでした。

 ところがこのアルバムは彼らのアルバムにしては入手困難な時期が長く続きました。メンバーは本作品をあまり評価していない様子です。露骨にヒットを狙った、ある意味ではセルフ・パロディーのような作品ではあります。私はそこが面白いと思うんですがどうでしょう。 

Republic / New Order (1993 London)



Tracks:
01. Regret
02. World
03. Ruined In A Day
04. Spooky
05. Everyone Everywhere
06. Young Offender
07. Liar
08. Chemical
09. Times Change
10. Special
11. Avalanche

Personnel:
Bernard Sumner
Peter Hook
Stephen Morris
Gillian Gilbert