中森明菜はデビュー2作目のシングルとなる「少女A」で早々にブレイクを果たしました。このアルバムはその大ヒットを受けて、前作アルバムからわずか4か月足らずで発表されたセカンド・アルバム「バリエーション<変奏曲>」です。もちろんオリコン・チャートを制しました。

 デビュー作と二作目の間隔は松田聖子と同じですけれども、松田聖子のブレイク曲「青い珊瑚礁」はデビュー作に含まれていたことを考えると、中森明菜の本作品は少し意味合いが違うように思います。「少女A」の大成功の勢いを確たるものにしようという感じでしょうか。

 「少女A」は強烈なインパクトのある楽曲です。この歌詞を聴いて当時多くの人が思い出したのは山口百恵の大ヒット曲「ひと夏の経験」です。歌っている内容はほぼ同じですけれども、確実に時代は進んでいました。中森明菜には山口百恵を重ねたものです。

 この曲は後にチェッカーズなどの楽曲でヒットを連発する売野雅勇と芹澤廣明のコンビによる初の作品です。エレキギターのイントロが歌謡曲としては革命的で、どすの効いた中森明菜のボーカルとともに、可愛いアイドル全盛の世間に強烈なインパクトを与えました。

 一言でいえば少し忘れかけていたヤンキー魂全開です。中森明菜の大きな人気の秘訣はこのヤンキー度の高さにあると思います。日本人は一億総ヤンキーであることを思い出させてくれました。世間は彼女のようなヤンキー少女を待っていたんです。

 そんな新たな魅力に気が付いた中森明菜のセカンド・アルバムはとにかく「少女A」的にヤンキー度が高いです。アルバムの最初と最後に「イントロダクション」と「エンディング」として壮大なインストゥルメンタルが配されているところなど、まさにそういう意図でしょう。

 今回は編曲者は2人に絞られており、大半は「少女A」を手掛けた荻田光雄が担当しています。そんなわけで前作とは異なり、全体に「少女A」の雰囲気が漂います。よく聴くと、アルバム・タイトル通り、結構バラエティー豊かなのですが、どうしても「少女A」の香りがあります。

 前作も多彩な作家陣を起用していましたが、本作品でもボーカル曲10曲に対して、作詞家が6人、作曲家は7人もいます。来生たかおも1曲、南佳孝が2曲、後にオメガトライブなどで活躍する和泉常寛が1曲、芹澤はこの時点では「少女A」のみの提供です。

 この多彩な作家陣が多彩な楽曲を提供しており、それを荻田と若草恵の二人が編曲しているという事実に対して、なぜアルバム全体が「少女A」的に聴こえるのかといえば、そこは中森明菜の堂々たる歌いぶりが、彼女の「少女A」的キャラクターを際立たせているからです。

 この頃から彼女はプロダクションに対して自身の意見をはっきりと表明するという話が伝わってきていました。ある意味ではセルフ・プロデュースです。こんなところも「少女A」的ではあります。アイドル写真の第一人者、野村誠一のジャケ写とはイメージの落差が大きいです。

 この作品は中森明菜のオリジナル・アルバムとしてはキャリア中最大の売上枚数を誇っています。後の彼女の活躍ぶりを考えると意外な気がしますけれども、確かに当時の中森明菜の勢いは凄いものがありましたから、その賜物なのでしょう。恐るべきアイドルの誕生でした。

Variation / Akina Nakamori (1982 ワーナー・パイオニア)



Songs:
01. (イントロダクション)
02. キャンセル!
03. 脆い午後
04. 哀愁魔術
05. 咲きほこる花に・・・・
06. ヨコハマA・KU・MA
07. メルヘン・ロケーション
08. 少女A
09. 第七感(セッティエーム・サンス)
10. X3ララバイ
11. カタストロフィの雨傘
12. (エンディング)

Personnel:
中森明菜 : vocal