ツトム・ヤマシタはまたまた新しいプロジェクトを始めました。これまでのさまざまな活動の集大成ともいえる壮大な「GO」プロジェクトです。本作品はその成果であり、私はこの作品こそがスペース・オペラ、ロック・シンフォニーの到達点だと信じて疑いません。

 学生時代にこのアルバムを擦り切れるほど聴きました。しかし、その後長らくCD化はなされず、インドの新聞に誰も知らない隠れた名盤と記されていたこともありました。最近になってその状況は改善され、ヤマシタの諸作品が見直されているのは大変結構なことです。

 このバンドはいわゆるスーパー・グループでもあります。リーダーはもちろんヤマシタ、連名とされているのは、説明不要のスーパースター、スティーヴ・ウィンウッドとサンタナのドラマーだったマイケル・シュリーヴの二人です。これだけでも十分ですが、そこにとどまりません。

 クラウト・ロックを代表するシンセの巨人クラウス・シュルツェ、リターン・トゥ・フォーエヴァーのアル・ディメオラ、元トラフィックのジャマイカン・ベーシスト、ロスコー・ジー、そしてホーンとストリングスのアレンジはポール・バックマスターと凄いメンバーです。

 国籍も日本、米国、英国、ジャマイカ、ドイツと多彩ですし、ジャンルもさまざま、よくもこんなメンバーが一堂に会したものだと感動すら覚えます。ウィンウッドは浪人中だったとはいえ、これはヤマシタの求心力のなせる業だということでしょう。

 この作品は宇宙を舞台にした壮大な物語になっています。なんでも制作するにあたり、まずはみんなでNASAの宇宙開発の映像を見たといいますから、気合の入り方が違います。ヤマシタの提示するコンセプトのもとにバンドは一体となって本作に取り組んだわけです。

 ヤマシタは本作品への意気込みを「ジャイアント・ポップ・クラシックを作るんだ。そこには壁はなにもないはずだ」と語っています。現代音楽畑の人ですから、ポップの人に比べればやはり壮大な作品の作り方に長けています。クロスオーバーなヤマシタに壁はありません。

 本作品には、ヤマシタが惚れたというウィンウッドの見事なボーカル曲も入っていますし、ディメオラの超絶ギター・ソロもあれば、ヤマシタの一味違う打楽器、シュリーヴの凄いドラムも入っています。バックマスターのホーンやストリングスも味わえます。

 しかし、アルバムの印象を決めているのはシンセサイザーです。ヤマシタとシュルツェの二人によるシンセ音が宇宙と響きあって全体のトーンを決めています。まだシンセ初期ですから多彩な音ではありますが、いかにもシンセ臭い。しかし、その音が素晴らしいんです。

 よく聴けば、シンセを中心に音を組み立てているわけではなさそうですが、それでも全体の空気感はシンセが規定するひんやりした現代音楽的なものです。まさにザ・スペース・オペラであり、ロック・シンフォニーの大傑作です。クロスオーバーとはこういう作品でしょう。

 私は「クロッシング・ザ・ライン」が大好きです。ウィンウッドのベスト盤にもしばしば選ばれるほど、彼のキャリアにとっても重要な曲です。他のメンバーにとってもこのアルバムは重要な出来事だったようで、スーパースターたちを魅了したヤマシタは本当にすごいです。

Go / Stomu Yamashta, Steve Winwood, Michael Shrieve (1976 Island)

*2013年6月19日の記事を書き直しました。



Songs:
01. Solitude
02. Nature
03. Air Over
04. Crossing The Line
05. Man Of Leo
06. Stellar
07. Space Theme
08. Space Requiem
09. Space Song
10. Carnival
11. Ghost Machine
12. Surf Spin
13. Time Is Here
14. Winner / Loser

Personnel:
Stomu Yamashta : synthesizer, percussion
Steve Winwood : vocal, keyboards
Michael Shrieve : drums
Klaus Schulze : synthesizer
Al Dimeola : guitar
Rosko Gee : bass
Pat Thrall : guitar
Brother James : congas
Lenox Langton : congas
Thunderthighs : chorus
Chris West : guitar
Julian Marvin : guitar
Bernie Holland : guitar
Hisako Yamashta : violin, voice
Paul Buckmaster : horn and string arrangement