マイケル・ジャクソンと肩を並べるスーパースター、プリンスのデビュー・アルバム「フォー・ユー」です。マイケルは幼少の頃から芸能界で活躍していて、なしくずし的にソロ・デビューしていますけれども、プリンスは正真正銘ここからキャリアを始めていますから分かりやすい。

 プリンスはアマチュア時代から音楽関係者の話題となっていた様子で、1977年には数社が手を挙げ、その中から破格の契約金を提示したワーナー・ブラザーズとレコード契約を結びます。この時、プリンスはまだ19歳、まるで日本の「スター誕生!」です。

 プリンスはセルフ・プロデュースの権利も獲得していたということで、本作品はボーカルのみならず、すべての楽器を自ら演奏しています。エキュゼクティヴ・プロデューサーとしてジノ・バネリなどで知られるトミー・ヴィカリがあてがわれましたが、ほぼ無視されたそうです。

 そんなわがまま極まりないアルバムがすかっと売れていれば話は出来過ぎなのですが、そうはなりませんでした。当時の米国ヒット・チャートでは163位に過ぎません。後にスーパースターとなるプリンスです。米国人はこの結果を後悔している様子がみえます。

 日本でも本作品は発売さえされず、プリンスの名前はほとんど知られることはありませんでした。私などは彼のことを知ったのは「パープル・レイン」からですから、突然スーパースターが現れたという狐につままれた状態に陥っておったほどです。本作など知るわけがない。

 ネットを渉猟してみても、プリンスの本作品をリアルタイムで評しているものはまるで見当たらず、いずれもスーパースター状態を経験した後で、原点を振り返ってみているものばかりです。後に発揮される才能の片鱗を覗かせているとかいないとか。

 プリンスはプリンスですから、後付けで本作品と後のアルバムとの類似点を指摘するのは簡単です。しかし、発表当時の評価はどうだったんでしょう。この時に後のスーパースターぶりを予感するレビューを書いていたら、自分は見る目があると鼻高々だったのに残念です。

 実際、本作品はプリンスのファルセット・ボーカル満載ですし、サイバーなファンク・リズムが全開です。後のプリンス像を容易に想像できてしまいますから、プリンス・サウンドはデビュー作にして完成度がきわめて高いということができます。原点はここにありということです。

 まだ十代の若者が大手レコード会社からのデビュー作というプレッシャーの中で、たった一人ですべての楽器を演奏して作り上げたという事実にまず感動します。しかも、タイトル曲などは何十回もボーカルが重ねられています。初めからスーパースターでした。

 プリンスはこの後、スタジオでの経験をどんどん積んでいくと、ますます先鋭的なサウンドを追求するようになりますし、猥雑方面にもリミッターが解除されていきますけれども、本作品はまだデビュー作ですから制作過程はともかく、サウンドは常識の範囲内に収まっています。

 プリンスの独自のファンク・ミュージックの原点ではありますが、一言でいうとまだ大人しい。しかし、それゆえにちょっといい感じのソウル/ファンク・ミュージックを楽しむことができます。天才によるこだわりのアルバムに違いありませんが、気楽に聴けて何だか微笑ましいです。

For You / Prince (1978 Warner Bros.)



Tracks:
01. For You
02. In Love
03. Soft And Wet
04. Crazy You
05. Just As Long As We're Together
06. Baby
07. My Love Is Forever
08. So Blue
09. I'm Yours

Personnel:
Prince : vocal, all instruments