ツトム・ヤマシタの縦横無尽な活躍ぶりは調べれば調べるほど凄まじいものがあります。しかし、断片的にはいろいろと伝わってくるものの、キャリアを俯瞰したような文献に出くわしません。おそらくは一つの分野の専門家の手の負えないからなのでしょう。

 本作品はヤマシタの新たなアルバム「レインドッグ」です。前作の「ワン・バイ・ワン」は映画のサントラでしたけれども、前々作に引き続いてイースト・ウィンドの作品でした。しかし、このアルバムにはヒュー・ホッパーは参加しておらず、またまた新しいプロジェクトになりました。

 「レインドッグ」プロジェクトは「ザ・マン・フロム・ジ・イースト」と同様にマルチ・メディア・イベントとして企画されました。レッド・ブッダ・シアターのメンバーも参加していることから、同プロジェクトの続編と紹介されることも多いです。全然違う気もしますが、よく分かりません。

 1975年にロンドンのラウンドハウスで初演されたプロジェクトには、南アフリカ出身の人気俳優デヴィッド・ベイリーが主演し、アーサー・ブラウンの「ファイヤー」で有名なヴィンセント・クレインが音楽監督をヤマシタとともに務めていたとのことです。

 プロジェクトはロンドンで2か月間も連続公演を行った後、ヨーロッパ各国を巡業するという大成功を収めています。本作品はその劇用の音源を収録したアルバムという位置づけです。しかし、パフォーマンスを録音したものではなく、あくまでスタジオ録音です。

 参加ミュージシャンはイースト・ウィンドからギターのゲイリー・ボイル、キーボードのブライアン・ガスコワン、奥さんのヒサコ・ヤマシタが引き続き参加しています。加えて、沖至トリオや佐藤允彦などに参加していたドラムの田中保積が日本から呼ばれました。

 さらに日本からギターには頭脳警察やハルヲフォンなどとかかわりのある松本恒男、ベースにはアニメや特撮の音楽で活躍する藤田大土が参加しています。そして、舞台らしく、マレイ・ヘッドとマキシン・ナイチンゲールの二人のボーカリストが加わっています。

 ボーカルの二人は当時話題となっていたミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」で頭角を現した人々です。二人はタイトル曲を始め、本作品のボーカル曲ではしっかりとミュージカルっぽく歌っており、本作品がステージとともにあることが分かります。

 この作品はまたまた振れ幅が大きいです。ニコラス・ローグ監督の「地球に落ちて来た男」にも使われた「33 1/3」では、それまで噂には聴いていたヤマシタの超絶ドラミングが堪能できます。一方、「シャドウズ」はバイオリンとピアノのクラシカルなデュオです。

 冒頭の「デューン」は15分に及ぶ大作です。「ワン・バイ・ワン」を思わせる高速ドラムで始まる曲は、次作「GO」につながる一大絵巻です。「レインドッグ」や「モンク・ソング」はポップな装いですし、最後の「イシ」は劇場のパフォーマンスを想起する作品です。

 サウンドトラックの性格から、さまざまな曲が一枚に同居していますけれども、ここではこれまで以上にヤマシタの打楽器が活躍しているように思われ、そこが一本芯を通しています。あれもヤマシタ、これもヤマシタ。とてもじゃないですが、全体像をつかめない大きな人です。

Raindog / Stomu Yamashta (1975 Island)



Tracks:
01. Dunes
02. 33 1/3
03. Rainsong
04. The Monks Song
05. Shadows
06. Ishi

Personnel:
Stomu Yamashta : percussion
Daito Fujita : bass
Brian Gascoigne : piano, clavinet, synthesizer
Hozumi Tanaka : Drums
Tsuneo Matsumoto : guitar
Gary Boyle : guitar
Hisako Yamashta : violin
Murray Head : vocal
Maxine Nightingale : vocal