ツトム・ヤマシタのヘビメタ・ヒーローのような写真をあしらったジャケットに包まれた作品が映画のサウンドトラックであるなどと思う人が果たしているのでしょうか。しかし、これはまぎれもないツトム・ヤマシタによる映画音楽作品「ワン・バイ・ワン」です。

 映画は「F1グランプリ 栄光の男たち」という邦題で日本でも公開されています。邦題の通り、F1グランプリのレーサーを描いたドキュメンタリー映画です。1973年シーズンの記録映像を主に使っており、特に事故映像が結構使われていたようです。

 日本でも1976年に初めてF1戦が開催されており、この映画でも中心となっているジャッキー・スチュワートの名前などは当時高校生だった私にもなじみ深いです。スチュワートと並ぶヒーローだったフランソワ・セベールは同シーズンの終わりに事故で亡くなっています。

 どのような経緯なのか分かりませんが、ヤマシタは同作品の監督クロード・デュボックの求めに応じて映画のための音楽を制作しました。この頃の多作なヤマシタですから、このような依頼は朝飯前だったのか、あっという間に曲が出来上がったそうです。

 クレジットはツトム・ヤマシタのイースト・ウィンドとなっており、前作「フリーダム・イズ・フライトニング」とほぼ同じメンバーが演奏に参加しています。すなわち、ベースのヒュー・ホッパー、ギターのゲイリー・ボイル、キーボードのブライアン・ガスコワン、ヤマシタ夫妻です。

 新たに加わったのはコンガとフルートとボーカルを担当するファンク畑のサミ・アブ、ボイルやホッパーとともにアイソトープを結成するドラマー、ナイジェル・モリスの二人です。なかなかのメンバーですから、イースト・ウィンドは本作品までなのがちょっと残念です。

 なお、「スーパースター/ロクシクル」1曲だけはギターとドラムが異なります。ドラムにはホッパーとギルガメッシュを結成するマイク・トラヴィスが参加しています。ホッパーのプログレ人脈なのでしょうが、この頃のブリティッシュ・プログレ・シーンがしのばれます。

 さて、ジャケットはまるでサウンドトラックを想起させませんけれども、アルバムはサウンドトラックらしさ全開です。とりわけ後半部に顕著です。7曲目の「シーズンズ」はヴィヴァルディの「四季」をバイオリン中心のクラシカル・アレンジそのままで聴かせます。

 続く「アクシデント」は怒涛のパーカッションで事故を表現しており、最後の「アット・タンジェリン・ビーチ」はまたヒサコ・ヤマシタのバイオリンを前面にたてた室内楽仕様で、美しく締めます。このあたりもヤマシタにとってはお手のものなのでしょう。

 考えてみれば冒頭のタイトル曲からしてサントラ的です。高速ドラミングから始まるジャズ・ロックの名曲は疾走するF1カーそのものです。ラテン風の「レイン・レース」に続くのはクラシカルな「タンジェリン・ビーチ」ですし、バラエティ豊かな曲調はサントラならではです。

 「スーパースター/ロクシクル」とタイトル曲にカップリングされている「ヘイ・マン」ではサミのファンキーなボーカルがさく裂しますし、「ニュルブルクリンク」ではプログレ全開。ヤマシタのこれでもかと繰り出してくる音楽の幅の広さに感動してしまうかっこいいサントラです。

One By One / Stomu Yamash'ta's East Wind (1974 Island)



Tracks:
01. One By One / Hey Man / One By One (Reprise)
02. Black Flame
03. Rain Race
04. Tangerine Beach
05. Superstar / Loxcycle
06. Nurburgring
07. Seasons
08. Accident
09. At Tangerine Beach

Personnel:
Stomu Yamashta : percussion
Hisako Yamashta : violin
Hugh Hopper : bass
Gary Boyle : guitar
Brian Gascoigne : keyboards, synthesizer
Sami Abu : vocal, congas, flute
Nigel Morris : drums
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Frank Tankowski, Bernie Holland : guitar
Mike Travis : drums