弱冠20歳の頃からのツトム・ヤマシタの精力的な活躍ぶりは恐ろしいものがあります。本当に一人なのかと疑ってしまうほどの八面六臂の大活躍をしています。しかも、当時の記録があれこれ錯綜していることで、正体が分かりにくくなっています。

 カム・トゥ・ジ・エッジとのコラボが成功して気をよくしたヤマシタは、30人を超える役者や音楽家を日本から招いてレッド・ブッダ・シアターを結成します。このシアターは1972年の秋からパリやロンドンで公演を行い、好評を博しました。

 能や歌舞伎から民謡、大道芸などまで日本の伝統芸能を取り入れたステージで、ジャケットに掲載された写真を見ると天井桟敷など日本のアングラ演劇の雰囲気が漂っています。まさに本作品のタイトル通り、「ザ・マン・フロム・ジ・イースト」の面目躍如たるものがあります。

 本作品はレッド・ブッダ・シアターのサウンドトラックとして制作されたアルバムです。全部ではありませんが、実際に1972年10月30日にパリにおけるレジデンスとなっていた劇場のライヴ録音が収録されています。わずか2曲ですが収録時間比では約半分です。

 残りの曲はロンドンでスタジオ録音されています。演奏しているメンバーはモーリス・パートを始めとする面々なのですが、カム・トゥ・ジ・エッジではありません。カム・トゥ・ジ・エッジはすでに解散しており、パートが結成したまだ名前のないバンドです。

 シアターのパフォーマンスを録音したライヴ曲では、三味線やはっきりクレジットはされていませんが、日本の笛や太鼓も使っており、お囃子から♪えっちごーじしぃー♪などという唄まで入った和もの全開のサウンドが奏でられます。レッド・ブッダ・シアターの本領発揮です。

 一方、スタジオ録音の方は、プログレッシブ・ロックないしはジャズ・ロック的なサウンドで、前作の延長線上に位置づけても違和感のないサウンドです。欧米の批評を見てみると、この異質な二つの要素が同じアルバムに同居していることに戸惑っているものがあります。

 日本文化に慣れ親しんでいないと聴きにくいのかもしれません。しかし、日本文化はもとより、欧米のジャズ・ロックなどにも慣れ親しんだ私などからすれば聴きにくいわけはなく、二つの要素の同居にさほど違和感はありません。対称的でないのが残念ですが。

 シアター部分は日本から動員したミュージシャンも参加していますけれども、リズム隊はヨーロッパ勢ですし、何よりもヤマシタと並ぶ音楽のキーマンであるパートはこちらにもスタジオ部分にもしっかり参加しています。そのため、意外に両者はスムースに同居しています。

 曲名も含めたクレジットが不明瞭なのですが、スタジオ曲であるとされる1曲目の「スクープ」などは明らかにシアター寄りの曲です。シアター部分でもコンボによる演奏は日本的であろうとしつつも欧米流のサウンドになっています。東西の混交は面白いものです。

 スタジオ曲の白眉は「メモリー・オブ・ヒロシマ」でしょう。ゲイリー・ボイルの泣きのギターをフィーチャーしたこの曲は広がりのあるスペース・サウンドが素晴らしいです。この曲は後のスペース・オペラ作品「GO」に直結していると感じます。

The Man From The East / Stomu Yamash'ta's Red Buddha Theatre (1973 Island)



Tracks:
01. Scoop
02. Ana Orori
03. What A Way To Live In Modern Times
04. My Little Partner
05. Mandala
06. Memory Of Hiroshima
07. Mountain Pass

Personnel:
Stomu Yamashta : percussion, 三味線
Morris Pert : drums, percussion
Peter Robinson : piano
Alyn Ross : bass
Gary Boyle : guitar
Robin Thompson : soprano sax
Hisako Yamashta : violin, 三味線
廣田丈自 : claves, vocal
Hideo Funamoto : percussion
Shiro Murata : flute
Yoshio Taeira : piano
Goro Kunii : vocal
Mikako Takeshita : laughter
Maggie Newlands : organ
Phil Plant : bass