よく知られるように英国のニューウェイヴ・バンド、ザ・レインコーツはニルヴァーナのカート・コベインが賛辞を贈ったことから、再び世間の注目を浴びることになりました。1992年のことで、その時、レインコーツはすでに活動を休止してから8年近くたっていました。

 長らく廃盤になっていたアルバムも再発され、アナ・ダ・シルヴァとジーナ・バーチは求めに応じてバンド活動を再開します。いくつかライヴもこなし、ジョン・ピールのもとでセッションも録音されました。ニルヴァーナの英国ツアーでのライヴも予定されていました。

 残念ながらコベインが亡くなったことで英国ツアーは中止されてしまいましたが、レインコーツ人気は消えてなくなったりはしませんでした。彼女たちが活動していた1980年代前半よりも再発見以降の方がレインコーツの人気は高いと思います。

 「ルッキング・イン・ザ・シャドウズ」はレインコーツ人気が再燃してから制作された彼女たちにとって4枚目のアルバムです。発表は1996年6月、プロデューサーにはスエードやパルプを手掛けて頭角を現してきていたエド・ブラーが当たっています。

 ラフ・トレードも気合が入ったことでしょう。ただし、降ってわいたレインコーツ人気をマネタイズしようというようなさもしい感じは一切しません。なんたってみんなが愛するレインコーツです。これを機会により多くの人に聴いてもらいたい、そんな気持ちが伝わります。

 メンバーはオリジナル・レインコーツからはアナとジーナの二人のみで、二人の女性ミュージシャン、アン・ウッドとヒーザー・ダンの二人はブックレットに写真があるものの、メンバー扱いされているのかどうかは定かではありません。そのあたりは緩い感じです。

 この四人の他にはエドがキーボードを担当していることに加え、一曲だけですが、キング・オブ・ルクセンブルクことサイモン・フィッシャー・ターナーとバズコックスのピート・シェリーがコーラスで参加しており、お祭り感を醸し出しています。

 活動再開にあたって、楽器を練習し直したというレインコーツです。何年も時間はたっていますけれども、昔のレインコーツとごくごく自然に地続きです。こちらが元祖に違いありませんが、今や米国のインディーズ・バンドに引き継がれているDIYサウンドが全開です。

 全12曲はアナとジーナが6曲ずつ提供しています。ボーカルは作曲者がとることがお約束になっていて、まるでレノン・マッカートニー状態です。しゅっとして落ち着いたボーカルはアナ、ちょっと甘えたような声はジーナです。曲調も少し違います。

 ジュエルケースを解体すると曲のコードと歌詞を記載したカードが現れる仕掛けです。レインコーツの再評価には彼女たちの作る歌詞も大きなポイントになっています。フェミニズムからの評価も極めて高い。この作品でもまっとうなのか変なのかわからない歌詞が素敵です。

 ジャケットを飾るオブジェは洋服の上からかぶれます。アナが着ている写真がブックレットに掲載されています。よつばちゃんのようなこの感覚、これがレインコーツそのものです。共有できる人には深く共有できる、友達選びの試金石です。本当に特異なバンドです。

Looking In The Shadows / The Raincoats (1996 Rough Trade)



Tracks :
01. Only Tonight
02. Don't Be Mean
03. Forgotten Words
04. Pretty
05. Truth Is Hard
06. Babydog
07. You Ask Why
08. 57 Ways To End It All
09. So Damn Early
10. You Kill Me
11. Love A Loser
12. Looking In The Shadows

Personnel:
Ana da Silva : vocal, guitar, bass, sruti box, keyboards
Gina Birch : vocal, guitar, bass
Anne Wood : violin, guitar, bass
Heather Dunn : drums, bass
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Ed Buller : piano, synthesizer
Pete Shelly, Simon Turner : vocal