日本にもフィリップ・グラス・ブームが訪れたことがありました。頂点ともいえるのが1984年の映画「コヤニスカッティ」の本邦公開です。公開当時、私は六本木のシネ・ヴィヴァンに見に行きましたが、その前売り券を買いがてらウェイヴでグラスのアルバムも買ってみました。

 そのアルバムが「ダンスNos.1&3」です。「コヤニスカッティ」の予習みたいな意味合いでもありましたけれども、結果的にこちらの方が好きになってしまいました。しかし、なんで1と3なのか、2はどこへ行ったのか、疑問に思っていましたが、答えはこの作品にありました。

 本作品は「ダンスNos.1-5」と題された二枚組CDです。この作品はグラスと振付家ルシンダ・チャイルズ、美術家ソル・ルウィットによるコラボレーションとして誕生しました。チャイルズはもちろんダンスを振付け、ルウィットはモノクロの映像を提供したようです。

 作品は1979年10月19日にオランダのアムステルダムで初演されました。翌月にはニューヨークのブルックリン音楽アカデミーにてニューヨーク・プレミアが行われており、本アルバムの一部は同時期にニューヨークにて録音されています。

 その録音は1と3で、翌年LPとして発売されました。私が購入したのはそのLPでした。この2曲はいずれもフィリップ・グラス・アンサンブルのために作曲された典型的なミニマル音楽となっており、ミニマリストとしてのグラスの本領が発揮されています。

 比較的小ぶりなアンサンブルで、グラス自身はファルフィッサのオルガンを演奏、キーボードには音楽監督のマイケル・リースマン、加えてフルートないしサックスが3人、ボイスが1人で計6名のアンサンブルです。人力で演奏するのは大変だったでしょう。

 次いでレコーディングされたのは、同じくアンサンブル用の「5」で、これは1984年のことです。アンサンブルは1&3と同様ですが、グラスは演奏に加わっていません。1&3に比べるとちょっと硬めの未来っぽい感じがするところがさすがに5です。

 これに対して2と4はオルガンの独奏です。曲調そのものはアンサンブル用の1と3と大きく変わるものではありませんが、何といっても一人でずっと通して演奏するわけですからサウンドは大きく異なります。「2」はリースマン、「4」はグラス自身の演奏です。

 「2」は1978年の「第四シリーズ・パート2」を本作品に取り込んだものだとのことです。この2曲が1986年にスタジオ収録されたことで、5曲のレコーディングが完了し、いよいよ本アルバムが1988年4月に発表されることにあいなりました。ややこしいです。

 ソロであれアンサンブルであれ、細かく刻む演奏が躍動感にあふれており、いかにもこれはダンスです。しかし、エモーショナルなダンスではなくて幾何学的なダンスです。エレガントですけれどもそれは数学的なエレガンス。それでもぴちぴちとしていて心躍ります。

 アンサンブルをソロに入れ込んでしまう試みは面白いです。多重録音をしているのかどうか定かではありませんが、音色が一つになると構造が浮かび上がるようで、いわばモノクロ写真ないしは砂嵐映像のイメージが浮かびます。典型的ミニマル音楽の傑作です。

Dance Nos.1-5 / Philip Glass (1988 CBS)



Songs:
(disc one)
01. Dance No.1
02. Dance No.2
(disc two)
01. Dance No.3
02. Dance No.4
03. Dance No.5

Personnel:
Philip Glass : organ
Michael Riesman : keyboards, organ
Iris Hiskey : voice
Jon Gibson : flute, soprano sax
Jack Kripl : flute, piccolo, soprano sax
Richard Peck : flute, alto sax, tenor sax
Dora Ohrenstein : voice