口元は軽く「あいーん」の形に整え、胸を張って肩をいからせて笑顔を作ってみます。そうすると気分はスモーキー・ロビンソンです。この姿勢を保ったまま、スモーキーになりきって、ファルセットで「ビーイング・ウィズ・ユー」を思う存分歌うと気分は最高です。

 1981年といえばパンクを経てニュー・ウェイブの時代です。すっかり入れ込んでいた私にはモータウンは遠い存在だったはずなのですが、なぜかスモーキー・ロビンソンのこのアルバムを買いました。これを機にソウルに入れ込んだわけでもなく、単発買いです。

 そして本当によく聴きました。その上、スモーキーになりきって家でよく歌っていたものです。当時はカラオケはまだ普及しておらず、実際、カラオケ屋さんでこのタイトル曲をみつけたのは10年ほど後のこと。それでも歌詞は覚えていましたし、ちゃんと歌えました。

 スモーキーは言わずと知れたモータウン創業時からの副社長にして、リード・シンガー、ソング・ライター、プロデューサーとして初期のモータウンを一人で支えた人です。その上、ボブ・ディランによれば「スモーキーはアメリカで生きている最高の詩人」です。

 当初はミラクルズのリード・シンガーとして活躍しました。1970年代初めに脱退してからは1990年代の初めまで、コンスタントにソロ・アルバムを発表し続けました。その後は間隔が開きますが、今でも現役です。本作品は彼のソロ作品の中で最大のヒット作です。

 シングル・カットされた表題曲「ビーイング・ウィズ・ユー」はアルバムともども全米2位の大ヒットとなっています。シングル曲の1位を阻んだのはキム・カーンズの「ベティ・デイヴィスの瞳」で、奇しくもプロデューサーは本作と同じジョージ・トービンです。

 キム・カーンズで思い出しました。私は当時小林克也氏の「ベスト・ヒットUSA」を毎週欠かさず見ていました。そこでスモーキーの「ビーイング・ウィズ・ユー」のMVを繰り返し見て、彼の歌声に魅了されたことが本作品の購入に至った要因だったのでした。

 このアルバムでのスモーキーの歌声はとても優しくて、その優しさが胸の奥底を撫でてくれます。やさしいけれども力強い声です。当時、一人暮らしの貧乏学生だった私のセンチメンタルな側面が、彼の歌声を必要としていたのでしょう。ティーンエージャーを過ぎていましたが。

 スモーキーは、このアルバムではシンガーに徹しています。ソングライティングの面でも全8曲中、自作曲はそのちょうど半分です。自分の曲にこだわらず、歌いたい歌を歌ったのでしょう。本人はとても気持ちよさそうで、聴いている者にも気持ちよさが伝わってきます。

 演奏はモータウン全盛期のファンク・ブラザーズなどによるサウンドとは一線を画しています。いわゆるブラック・コンテンポラリー系の演奏なのでおとなしいと言えばおとなしい。当初は残念に思ったものですが、これはこれで歌い方にはあっているように思います。

 スモーキー・ロビンソンの長いキャリアの中で、初期モータウンの名曲たちを抑えて、表題曲が彼の代表曲として紹介されることも多くなってきました。ローリング・ストーン誌に歴史上もっとも偉大なシンガーにランクされるスモーキーと一緒に歌うには最高の作品です。

Being With You / Smokey Robinson (1981 Tamla Motown)

*2012年10月5日の記事を書き直しました。



Songs:
01. Being With You
02. Food For Thought
03. If You Wanna Make Love (Come 'Round Here)
04. Who's Sad
05. Can't Fight Love
06. You Are Forever
07. As You Do
08. I Hear The Children Singing

Personnel:
William Smokey Robinson : vocal
***
Bill Cuomo : keyboards
Mike Piccirillo : synthesizer, organ, guitar, keyboards, percussion
Scott Edwards : bass
Ed Greene : drums
Howard Lee Wolen : percussion
Mark Wolfson : percussion
Joel Peskin : sax
David Strout : trombone
Harry Kim : trumpet
Ivory Davis, Patricia Henley, Robert John, Claudette Robinson, Julia Waters Tillman, Maxine Waters Willard : chorus
(for As You Do)
Reginald "Sonny" Burke : keyboards
Ronnie Rancifer : keyboards
Paul Jackson Jr. : guitar
Robert "Pops" Popwell : bass
James Gadson, Scotty Harris : drums