チャーのソロ三作目「スリル」には富士山趣味が健在です。ただし、今回はレコードの内袋と歌詞カードに小さく映し出されているのみで、富士山への愛の言明はありません。チャーといえば富士山というくらいになって欲しかったのに控えめにすぎました。

 本作品ではこれまでのバンド・メンバーとのセッションに加えて、「ガンダーラ」の大ブレイク直前のゴダイゴとの共演が実現しています。トミー・シュナイダー、スティーヴ・フォックスのリズム隊とミッキー吉野の三人とのセッションとなっています。

 全員で一緒にというわけではなく、両バンドははっきりと分かれているようです。だいぶテイストが違うように思います。たとえば、「トゥモロウ・イズ・カミング・フォー・ミー」などは随分ゴダイゴよりの気がします。どちらが演奏しているのか今一つ自信がないのですが。

 本作品からは「闘牛士」が大ヒットしました。作詞は阿久悠ですが、曲はチャーが作っています。ドリフの「8時だよ!全員集合」でチャーがギターを弾きながら歌っていたのを強烈に覚えています。ギター・ソロもあって、普通の歌手とは全然違っていました。かっこよかったです。

 余談ながら、この歌は私のカラオケ定番の一つです。間奏はエアギターと相場が決まっています。チャーはロック好きの中高年にとっては別格の感じがありますね。売れるための歌謡曲路線だったそうですが、いつまでも色あせることがありません。

 三枚目のこの作品も、一曲一曲が作りこまれていますが、前作ほどの振れ幅はなく、比較的正統派ロック道を歩んでいます。バンドは二つですが、ライナーの小島智さんの言葉を借りれば、「アルバム全体の流れなどにしても、起承転結がしっかり意識された跡がみえ」ます。

 一方で、少しチャーの日本語詞が気になります。当時のお兄さんたちのセンス全開なんですけれども、今から振り返るとちょっと気恥ずかしい感じがしてしまいます。チャーの魅力はそんなことを気にしないところにあるのは分かっているのですが。

 そこへいくとトミーの力も借りた英語詞は全く気にならないので素直に楽しめます。耳がいいんでしょう、チャーの英語は違和感なくてとてもかっこいいです。ネイティヴではありませんけれども、非ネイティヴとして全く正しい英語だと思います。

 サウンド面では、ギターの活躍度合いが随分増えた印象があります。もちろん、これまでも目立っていたのですが、より一層際立ってきました。それもことさらにギターを前面にだしているというよりも、自然に前に浮き上がってきたような感覚です。

 8分を超える名バラード「ワンダリング・アゲイン」での泣きのギターなど感涙ものです。こうした曲を決して湿っぽくならずに、しかも感動的に歌って演奏できるのはチャーならではの技です。再び小島さんの言葉を借りると、チャーの「平衡感覚」ということになります。

 この後、チャーはジョニー、ルイス&チャーを結成し、よりロック・テイストを前面にだしていきます。歌謡曲からシティ・ポップ、ハード・ロックにフュージョンと持ち前の平衡感覚で縦横無尽に走り回ったソロ三部作にはこれにて一応の終止符が打たれました。

Thrill / Char (1978 SEE・SAW)

*2014年5月2日の記事を書き直しました。



Songs:
01. You Got The Music
02. 闘牛士
03. 波
04. Thrill
05. My Friend
06. あいつのBoogie
07. Tomorrow Is Coming For Me
08. 表参道
09. Wondering Again

Personnel:
竹中尚人 : guitar, vocal
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Robert Brill : drums
George Mastich : bass
佐藤準 : keyboard
Tommy Snyder : drums
Steve Fox : bass
ミッキー吉野 : keyboards