「気絶するほど悩ましい」です。チャーの音楽人生最大の問題作といってもよいかもしれません。本作品ではこの曲のみ自作曲ではなく、阿久悠作詞、梅垣達志作曲という歌謡曲の王道仕様の楽曲です。そしてこの曲は30万枚を売り上げる大ヒットになりました。

 小島智さんはライナーにて、この曲は「はっきりいえば『媚びた』ナンバーとして、批判の対象になりはした」と書いています。確かに、この歌はカラオケで歌うと完全に演歌のようになってしまいます。ところがチャーが歌うとそうはなりません。

 特にアルバム・バージョンはアコギとパーカッションだけの演奏で、ぶっきらぼうなギターが何とも言えない味を出していて、一言で切って捨てるなどとてもできません。歌謡曲っぽくしないと売れないと判断したのでしょうが、それでもロックにとどまるところが凄い。

 本作品「ハヴ・ア・ワイン」は前作から約1年の間をおいて発表されました。メンバーは前作とほぼ同じですが、ボーカルもとっていたキーボードのジェリー・マルゴシアンが抜け、チャーが全面的にリード・ボーカルをとるようになりました。

 前作に比べると、随分カラフルになった印象です。歌謡曲仕様は「気絶するほど悩ましい」だけで、カップリングされた「ふるえて眠れ」は阿久悠のねっとりした作詞ですけれども、作曲はチャーが行っていて、気絶するほどではありません。

 50年代テイストの「トーキョー・ナイト」、ファンキーな「秋風」、スパニッシュな「フローレン」など、さまざまなテイストが混在しています。そして、「サンデー・ナイト・トゥ・マンデー・モーニング」と「アイスクリーム」は前作の代表曲2曲へのアンサー・ソングとなっています。

 デビュー作を発表したことで余裕が生じたのか、それとも「気絶するほど悩ましい」路線のヒットで方向を模索したのか、前作とのつながりを保ちながらも、とにかくいろいろな楽曲を試してみようという意気込みだったのでしょう。何でもできる器用な人です。

 そして目立つのはチャーの作詞です。前作で日本語詞を手掛けていた天野滋が1曲、阿久悠が2曲、チャーが2曲と英語詞全曲という役割分担になっています。歌謡界では歌詞も重要ですから、意に染まぬ方向にもっていかれすぎないためにも自作は大事です。

 チャーはこの当時22歳です。よくテレビ番組で見かけました。歌謡番組のみならず、バラエティーにも普通に出演していました。当時、ロックやフォークのアーティストはまずテレビに出ませんでしたから、チャーのようなギターを弾く人がテレビに出ているのは不思議な感じでした。

 しかし、チャーは何をしても決して安くなりません。洗練されたサウンドと天才ぶりを遺憾なく発揮する超絶ギターを武器に、何をどうやってもかっこいい規格外のアーティストでした。この二枚目のアルバムも前作同様にいつまでも新鮮な傑作に違いありません。

 ところでチャーの富士山趣味はこのアルバムでも健在です。ジャケットの背景には富士山、インナー・スリーブにも富士山、歌詞カードにも富士山、裏ジャケットには富士山への愛を一言。スケールの大きなアーティストにふさわしい富士山偏愛です。

Char II Have A Wine / Char (1977 SEE・SAW)

*2014年4月30日の記事を書き直しました。



Songs:
01. 過ぎゆく時に
02. Sunday Night To Monday Morning
03. 秋風
04. 気絶するほど悩ましい
05. Tokyo Night
06. Ice Cream
07. Rainy Day
08. ふるえて眠れ
09. 夜
10. Fraulein

Personnel:
竹中尚人 : guitar, vocal
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George "Funky" Nishizawa (Mastich) : bass, chorus
佐藤準 : keyboard, chorus
Robert Brill : drums, percussion, chorus