タージ・マハル旅行団は1968年に活動を開始した音楽集団です。帯の煽り文句によれば、「天衣無縫の演奏スタイルと、ロック、ジャズ、現代音楽を融合した分類不能な孤高の音楽性で世界的な独自の存在となった伝説のグループ」です。

 メンバーの中で最も有名な人物は小杉武久です。この当時、すでに米国でフルクサスのメンバーとしての活動を経験しており、いわゆる前衛音楽の世界では名が知れていました。そのため、タージ・マハル旅行団は小杉のグループとして扱われることが多いです。

 しかし、グループのメンバー七人は、誰がリーダーというわけでもなければ、共同体でもありません。その意味では通常のロック・バンドとも違いますし、ジャズの演奏家集団というものともあり方が異なります。それぞれが好き勝手をしているようなものです。

 彼らは当初はピットインなどのライヴ・ハウスで演奏していましたけれども、やがて床に座って演奏する形となり、屋外を含むさまざまな場所で演奏する本物の「旅行団」になっていきました。実際にオランダから中東を経てインドのタージ・マハルに至る長旅をしています。

 その旅先での演奏で世界に名が知れていくわけです。電気が使えるところならばどこでも演奏したといいますから面白いです。日本でも1970年夏の大磯海岸での日の出から日没まで延々と続いた演奏が有名です。この時は300メートルもの電線を架設したそうです。

 彼らの録音作品はきわめて限られており、本作品「1974年8月」は彼らにとって唯一のスタジオ録音作品です。発表は日本コロムビアからです。ついでに彼らのライヴ盤はCBSソニーからの発表となっており、この当時のメジャー・レーベルの心意気に感動します。

 本作品は2枚組です。レコードの制約で全4曲となっていますが、実際には延々と続く一続きの演奏です。七人とゲスト一人を加えた8人が延々と即興演奏を繰り広げますけれども、全員が一丸となって熱い即興バトルを展開、するなどということは一切ありません。

 「ぼくら七人は、みんなで集まって何かやって、つまり演奏やって、ピクニックに行くことが楽しいからそうしているだけですよ」という言葉通りです。「観客にひとつのメッセージを伝える」とか「演奏がひとつのジャンルみたいになっているような活動の仕方」ではありません。

 「音を出したいという、自分の欲望」にだけ彼らの音楽は立っています。それぞれが音を出した瞬間に、音は演奏者の手から離れて空気の振動に変る。それを聴くのは演奏者も観客も同じ立場となる。そんな次第が手に取るように分かる彼らの演奏です。

 演奏者同士もお互いが交感するのではなく、場に満ちている音にのみ反応しているように思います。そこが彼らのユニークなところです。電子楽器に加えて生楽器や声も使いますが、それを電気的に増幅して演奏者自身から切り離しているようです。

 ドローンを主体としたエクスペリメンタルなサウンドですが、当時の機材の制約を感じさせない新鮮なサウンドです。内向的ではなく開放的に広がるサウンドですから、彼らの言う通り、聴きながら寝ても食べてもその場を出て行っても何をしても自由。すかっとした作品です。

August 1974 / Taj Mahal Travellers (1974 コロムビア)



Songs:
(disc one)
01. I
02. II
(disc two)
01. III
02. IV

Personnel:
小杉武久 : electric violin, harmonica, voice, etc.
小池龍 : electric double-bass, suntool, voice, etc.
土屋早雄 : bass-tuba, percussion, etc.
永井清治 : trumpet, synthesizer mini-korg, timpani, etc.
木村道弘 : voice, percussion, mandoline, etc.
長谷川時夫 : voice percussion, etc.
林勤嗣 : electric technique
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Hirokazu Sato : percussion, voice, etc.