「現代の音楽」はNHK-FMで今でも放送されている日本国内唯一の現代音楽のラジオ番組です。放送開始は1957年4月7日ですから、60年以上にわたって脈々と続く長寿番組です。さすがはNHK、国営放送としての大変立派な仕事だと思います。

 NHK「現代の音楽」アーカイブシリーズは、「戦後の日本音楽シーンを代表する邦人作曲家に焦点をあて、その代表作の初演や未発売作品のライブ録音を中心に収録したCDシリーズ」です。膨大な音源の中から選ぶわけですから、腕が問われるところです。

 収録音源は全て、「現代の音楽」にて放送された番組のマスターテープから編集・マスタリングが行われています。本作品にはマスタリング・エンジニアの藤田厚生氏のインタビューが封入されており、その丁寧な仕事ぶりが披露されています。

 ラジオ音源ということで音質に一抹の不安がありましたが、全くの杞憂でした。制約の多い当時の技術で工夫を凝らして録音された音源よりも、技術の進歩した現在の録音の方が「ゆるい感じがして」と藤田氏が漏らしています。両者の合わせ技で一本というところでしょう。

 本作品はその第3弾として発表された武満徹の作品集です。選ばれているのは5曲で、そのうちの4曲は1960年代の演奏です。中でも「風の馬」は1961年11月の初演が収録されています。また、最後に武満徹と杉浦康平との対談が収録されています。

 最初の「地平線のドーリア」のみ1979年と少し後の録音です。11月に東京文化会館で開催された芸術祭コンサートでの演奏で、指揮は小林研一郎、演奏は東京都交響楽団です。続けて1967年の「テクスチュアズ」、森正指揮NHK交響楽団の演奏です。

 「地平線のドーリア」は「音楽の水平的な構造を重視した」ものだと武満自身が解説しています。このことは垂直的な構造ではないかと思われる「テクスチュアズ」と対比することで分かる仕組みになっており、選曲者の企みがほの見えます。要領よく武満を紹介しています。

 続く「風の馬」は初演でヴォカリーズとテキストを歌うパートが交互に出てきます。武満らしい声楽作品です。さらに代表曲「ノヴェンバー・ステップス」が続きます。同じ布陣で何度か録音されていますが、本作品は1969年と作曲からまだ日が浅い初期の演奏です。

 最後に武満作品でデビューした高橋アキと松谷翠による「ピアニストのためのコロナ」で締めくくります。こちらは1968年の「日独現代音楽祭『現代ピアノ音楽の夕べ』」での演奏です。音数の少ない作品が硬質なモノラル録音で凄味を増しています。

 最後の最後は1963年の対談です。その際に流された曲は収録されていませんが、武満による作曲の話は普遍的です。作曲家はいろいろな音に意味づけをした上で、♪いろんな音たちの出会う環境をつくる♪ことが仕事なのだと語っています。

 私は武満作品を聴くと、もれなくウルトラQの冒頭部分を思い出します。そしてそれがそのまま「現代音楽」の印象で、先の武満の言葉に得心がいく所以でもあります。解き放たれた音が身近なところでもつれあう様子はいつ聴いても刺激的です。

Toru Takemitsu NHK Archive / Toru Takemitsu (2011 Naxos)



Songs:
01. 地平線のドーリア
02. テクスチュアズ
03. <風の馬>よりI,II
04. ノヴェンバー・ステップス
05. ピアニストのためのコロナ
06. 対談:武満徹/杉浦康平

Personnel:
小林研一郎 指揮 東京都交響楽団
森正 指揮 NHK交響楽団
田中信昭 指揮 東京混声合唱団
鶴田錦史 : 琵琶
横山勝也 : 尺八
岩城宏之 指揮 NHK交響楽団
松谷翠、高橋アキ : piano