i-depは、「プロデューサー/ソングライター/DJとして、縦横無尽にジャンルを駆け巡るナカムラヒロシによるミュージックプロジェクト」です。「ミレニアム期にロンドンにて」スタートし、2004年にイタリアのIRMAレコードからデビューシングルをリリースしています。

 ナカムラは帰国後にストリート・ミュージシャンなどに自ら声をかけてまわって、バンドとしてのi-dep態勢を築いたとのことですから、デビュー時はソロ・プロジェクトだったのでしょう。バンドは2009年に解散し、またソロに戻りましたが2019年には復活しています。

 本作品は発表は2005年発表のファースト・アルバム「スマイル・エクスチェンジ」がロングセラーを続け、大いに注目を集める中で、翌2006年7月に発表されたセカンド・アルバム「スーパー・デパーチャー」です。勢いのあるバンドらしく豪華なパッケージ仕様です。

 一見、ヴェイパーウェイヴ的なジャケットにも思えますがそうではありません。写真と題名が示唆する通り、徹底的に航空会社になり切ったコンセプトでパッケージが作られています。その名前はエア・アモーレ、ポップでキュートなハートに飛び込むフライトが提供されます。

 パッケージには豪華ブックレットが添付されており、中にはロゴや機体、さらには地上作業車のデザインまでが披露されています。もちろんタグやバッグ、機内食からおみやげ、カウンターのデザインなどおよそ航空会社を運営するにあたって必要なあれこれが網羅されます。

 遊び心満載のパッケージには彼らのサウンドのコンセプトが表れています。ラヴ&ピースです。前作が「スマイル・エクスチェンジ」であったことを思い出しましょう。このアルバムのサウンドも愛と平和に満ち満ちています。からりと晴れ上がっています。

 ワールドデビューが先だったことからも想像される通り、i-depの主戦場はクラブ・ミュージック・シーンです。ベースはハウスになるのでしょうが、そこにジャズやファンク、ボサノヴァからヒップホップとさまざまな要素を絶妙に取り込んだスタイルです。

 メンバー6人のうち、エレクトロニクスを操るのはナカムラのみです。残りの4人はギター、ベース、ドラム、サックス/フルートですから、しっかりとバンド仕様です。そこにボーカルのカナを加えて6人組です。ストリートミュージシャンを集めたという言葉通りですね。

 「よりファンキー&エモーショナルに進化した」とされる本作品では、2006年当時のクラブ・ミュージックの王道をわき目もふらずに堂々と歩んでいく様子がまぶしいです。その王道ぶりに私は聴いていてエクザイルを思い出しました。それくらいど真ん中です。

 再評価されているシティ・ポップの後継でもあろうと思います。とにかくゴージャスなサウンドが展開されていて、気持ちがよいことこの上ありません。タイトなリズム・セクションも、サックスとフルートの入り具合も極上です。ザ・クラブ・ミュージックです。

 本作品もロングセラーとなっており、外資系クラブチャートでは1位に輝いたとのことです。初めて聞くチャートですけれども、この作品が国境を持たないクラブ・ミュージックの世界においてしっかりと地歩を固めているのは当然のことと思いました。
 
Super Departure / i-dep (2006 Aztribe)