ジャケットに描かれているのはいかにも落書きです。これは実際に工場跡地に残されていた正真正銘の落書きを使っているそうです。そこに書き足されているのはバンド名とアルバム・タイトル、そしてやや読みにくいですが「未知数」という漢字です。

 ドンケルツィファーは1981年にドイツのケルンで結成されました。ケルンといえばカン、ドンケルツィファーの中心メンバーは、カンのドラマー、ヤキ・リーベツァイトのもとに集まったファントム・バンドに参加していたミュージシャンたちでした。

 本作品は彼らの2枚目のアルバム「イン・ザ・ナイト」です。前年に発表されたデビュー作と比べると中心となる7人は変らないものの、ベーシストとボーカリストが代わっています。本作品でボーカリストとして参加しているのが、誰あろうダモ鈴木です。

 前作ではトラフィックからカンに参加したリーバップ・クワク・バー他2名がボーカルをとっていました。残念ながらクワク・バーは前作の後、ジミー・クリフとのツアー中にストックホルムで亡くなってしまいました。後の二人も去ってしまって、ダモの出番となりました。

 ジャケットの漢字の謎もこれで解けるというものです。裏ジャケットにある曲名表記も日本語が添えられていますし、何よりも「サンデー・モーニング」や「Q」など何曲かは日本語で歌われています。なお、「未知数」はバンド名を邦訳したものです。ダモならではです。

 本作品は1984年に発表されています。この当時ドイツではノイエ・ドイッチェ・ヴェレと呼ばれるニュー・ウェイヴ・サウンドの波が押し寄せていました。しかし、このドンケルツィファーなどはそうした動向に掉さすというよりも、どっしりとクラウト・ロックの伝統に乗っています。

 メンバーの出自からも明らかなとおり、カンの影響が色濃く、カン本体がまだ続いていたとしたらこんなサウンドになっていたのではなかろうかと思わせるサウンドになっています。ダモ鈴木もまるで違和感なくドンケルツィファーに溶け込んでいます。

 アルバムは緩やかなレゲエ・ビートの曲「ウォッチ・オン・マイ・ヘッド」で始まります。このビートが何ともカンのエスニック・シリーズを思わせます。ボーカルのおかげで前作ほどにはどろどろしておらず、よりカンっぽいしゅっとしたエスニックです。

 次いでハープの音で「サンデー・モーニング」が始まります。ここでのダモのボーカルは♪君の言うことなどどうでもいい♪と60年代の日本のフォークを強烈に思い出させます。タイトなリズム・セクションに抒情的なボーカルが絡み、さらにジャズっぽいサックス。面白いです。

 アルバムは曲間をほとんど置かずに長尺の「追想」へとなだれ込みます。ライナーノーツではドンケルツィファーを「ケルンのコミューン・ポップの開拓者」と紹介していますが、この曲などはその言葉の正確さを証明しています。いわばクラウト・ロック版ジャム・バンドです。

 カンもジャム・バンドの元祖のようなバンドでした。ドンケルツィファーはその正統な後継者としての資格を十二分に持っています。ダモ鈴木も水を得た魚のように気持ちよく歌っています。ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ的でないために光が当たりにくいですが、これは名盤ですよ。

In The Night / Dunkelziffer (1984 Fünfundvierzig)



Songs:
01. Watch On My Head
02. Sunday Morning
03. Retrospection 追想
04. Q
05. (Do Watch What You Can) Prof.
06. I See Your Smile
07. Oriental Café

Personnel:
Helmut Zerlett : chorus, piano, synthesizer
Rike Gratt : bass
Mitthias Keul : bass, piano, synthesizer, zither
Stefan Krachten : congas, drums
Olek Gelba : congas, percussion
Dominik Von Senger : guitar
Wolfgang Schubert : oboe, sax
Reinier Linke : percussion, timbales
Damo Suzuki : vocal