私の子どもの頃は、日本でも西部劇が大いに流行っておりましたから、ビリー・ザ・キッドやワイアット・アープなどの名前はよく覚えています。子どもはみんな二丁拳銃を携えて早打ちを競ったものです。今とは考えられないくらいアメリカ文化の影響が強かった時代です。

 ボブ・ディランの約3年ぶりのアルバムは映画「ビリー・ザ・キッド」のサウンドトラックでした。3年のインターバルはこの当時にしてみればとても長い。そうなると当然のこととして、レコード会社はグレイテスト・ヒッツを挟みこみます。あたりまえのように大ヒットしました。

 バングラデシュ・コンサートもありましたし、何やかやでディランのニュースは途切れることはありませんでした。その極めつけが映画出演でした。サム・ペキンパー監督による西部劇「ビリー・ザ・キッド」で結構重要な役を与えられ、頑張って演技をしています。

 映画は「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」という題名で日本でも公開され、そこそこのヒットになっています。映画自体はよく覚えていませんでしたが、つい最近見直してみると俄然リアルタイムでも見た気がしてまいりました。主役はクリス・クリストファーソンでしたね。

 ディランは、この作品を映画の要望に応えるようにしっかりとサウンドトラックとして制作しています。中途半端は微塵もありません。サントラらしく大半の曲はインストゥルメンタルとなっており、ディランのボーカルが聴ける曲は4曲、うち3曲はテーマ曲「ビリー」の変奏です。

 しかし、あなどるわけにはいきません。もう1曲はかの有名なディランの代表作「天国への扉」です。この曲が鎮座ましましているために、ディランのファンであればこのアルバムを避けて通るわけにはいきません。さすがはディランというべきでしょうか。

 「天国への扉」は、映画撮影の途中でもう一曲必要だと知らされたディランがダビング段階になって初めて持ってきた曲です。編曲者に「ディランは私の望みを全く理解していなかった」と言われていたディランは、最後の最後にこの曲で彼をノックアウトしました。

 この曲はシングル・カットされて大ヒットを記録しています。シンプルな歌詞を印象的なメロディーで歌う名曲は、その後幾多のカバーを生みました。私が一番好きなのは、フレディ・マーキュリー追悼コンサートでのガンズ&ローゼズのカバーです。最高でした。

 アルバム全体のサウンドは、サントラらしく控えめな佇まいですけれども、ブッカーT&ザ・MGズで有名なブッカー・T・ジョーンズや、ザ・バーズのロジャー・マッギンなどを迎えて、西部劇らしい渋めの演奏が続きます。ディランのソングライターとしての魅力が全開です。

 決して派手ではないのですけれども、いつまでも聴いていられる演奏になっています。アルバムのコンセプトなどはすべて映画に委ねて、職人的に制作されたのだろうと思います。そこのところがアルバムの純度を高める要因になっています。

 残念ながら、映画の中では最後にプロデューサーと監督がもめたことなどから、ディランの意図していた場面で音楽が使われたわけではないそうです。そんな事情もこれあり、映画は映画、音楽は音楽で楽しんだほうがよさそうです。楽しいアルバムには違いありませんから。

Pat Garrett & Billy The Kid / Bob Dylan (1973 Columbia)

*2014年1月25日の記事を書き直しました。



Songs:
01. Main Title Theme (Billy)
02. Cantina Theme (Workin' For The Law) 酒場のテーマ
03. Billy 1
04. Bunkhouse Theme 小屋のテーマ
05. River Theme 河のテーマ
06. Turkey Chase 七面鳥狩り
07. Knockin' On Heaven's Door 天国への扉
08. Final Theme
09. Billy 4
10. Billy 7

Personnel:
Bob Dylan : guitar, vocal, harmonica
****
Jolly Roger : banjo
Bruce Langhorne : guitar
Roger McGuinn : guitar
Carol Hunter : guitar, chorus
Booker T. Jones : bass
Terry Paul : bass, chorus
Jim Keltner : drums
Russ Kunkel : tambourine, bongos
Carl Fortina : harmonium
Gary Foster : recorder, flute
Fred Katz, Ted Michel : cello
Byron Berline : chorus, fiddle
Priscilla Jones, Brenda Patterson, Donna Weiss : chorus