歴史を変えた名盤、ボブ・ディランの「追憶のハイウェイ61」です。冒頭の1曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」がとにかく凄いです。音楽評論家の中山康樹氏はこの曲のイントロを「ロック史上、もっとも印象的なイントロ」だと激賞しています。

 この曲の「たんなるスネア・ドラムの一打」は、「時代に打たれた句読点でもあり、その瞬間、時代は半ば強引に改行を余儀なくされたように思う」ほどのインパクトをもたらしました。常識外の6分を超える長尺にもかかわらず全米1位シングルとなった曲はとにかく凄い。

 フランク・ザッパ先生でさえ、この曲を聴いて音楽業界から足を洗おうかと思ったそうですし、ビートルズにローリング・ストーンズ、キャロル・キングなどなど、同業者に与えた衝撃はとても大きかったとのことです。このインパクトは今聴いても感じられる気がします。

 トム・ウィルソンが手掛けたこの曲は、「フィルモアの奇蹟」のマイク・ブルームフィールドのギターとアル・クーパーのオルガンをフィーチャーして究極のバンド・サウンドになっています。この当時特有のベースの音も相まってバランスは完璧です。

 録音の際、ブルームフィールドはディランの勘と経験によるアプローチに戸惑い、「場当たり的でいい加減にやっていたら、何だかうまくいってしまったという感じだった」といっています。共演のミュージシャンに理詰めで説明できないところが天才っぽくていいです。

 本作品はシングルがヒットしている最中にアルバムを出してしまおうというレーベル側の意向に、創作意欲にあふれたディランが応えて制作されました。バイク好きのディランというイメージで作られたジャケットはロック・スター然としていてかっこいいです。

 この作品ではほぼ全編がエレクトリックになりました。シングルとアルバムの間にニューボート・フォーク・フェスティバルがあり、そこで電気ディランは囂々たる非難を浴びるという事件もありました。今から振り返るとまるで信じられない話ですが。

 そんなことはこのアルバムからは微塵も感じられません。自信に満ちた50分間が過ぎていきます。最後の曲「廃墟の街」はディランの圧倒的な歌唱力が堪能できる11分の曲で、基本はアコースティックなのに電気を経たサウンドは以前とは一線を画します。

 収録された楽曲は「ライク・ア・ローリング・ストーン」を筆頭に全曲が傑作です。なぜか同曲だけトム・ウィルソンがプロデュースしており、残りはコロンビアのハウス・プロデューサーのボブ・ジョンストンが担当しているのですが、ウィルソンの魔力は全体に及んでいる気がします。

 この時代特有の録音によるサウンドで大きなグルーヴが生まれており、私の年代のロック・ファンには格別の思い入れがあります。べんべんなるギターやベース、控えめなドラムの位置、全体を覆うオルガン。ここに若いディランが水を得た魚のようにド迫力で歌います。

 アルバムは米国では3位となる大ヒットを記録しています。「ライク・ア・ローリング・ストーン」もシングルとしてビルボードでは2位、キャッシュボックスで1位となっています。しかし、一時のチャートを超えた永遠の名盤です。ボーカリスト、ディランが花開いた一枚です。

Highway 61 Revisited / Bob Dylan (1965 Columbia)

*2014年1月12日の記事を書き直しました。

参照:「ビートルズから始まるロック名盤」中山康樹(講談社文庫)



Songs:
01. Like A Rolling Stone
02. Tombstone Blues
03. It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry 悲しみは果てしなく
04. From A Buick 6 ビュイック6型の想い出
05. Ballad Of A Thin Man やせっぽちのバラッド
06. Queen Jane Approximately
07. Highway 61 Revisited 追憶のハイウェイ61
08. Just Like Tom Thumb's Blues 親指トムのブルースのように
09. Desolation Row 廃墟の街

Personnel:
Bob Dylan : vocal, guitar, harmonica, piano, siren
***
Mike Bloomfield : guitar
Charlie McCoy : guitar
Al Kooper : organ, piano
Paul Griffen : piano, organ
Frank Owens : piano
Harvey Brooks : bass
Russ Savakus : bass
Joe Macho, Jr. : bass
Bobby Gregg : drums
Sam Lay : drums
Bruce Langhorne : tambourine