オリヴィア・ロドリゴはこのデビュー・アルバム「サワー」を発表した時にはまだ18歳でした。その露払いをしたデビュー・シングル「ドライバーズ・ライセンス」は17歳の時に発表しています。どちらもストレートに全米初登場1位を記録する大ヒットです。

 この快挙にはもちろんオリヴィアがすでに役者としてディズニーの人気ミュージカルで人気者だったという事情が係わっています。さすがにまったく無名の新人であれば、チャート制覇は不可能ではないにしても、もう少し時間がかかったことでしょう。

 それに「ドライバーズ・ライセンス」にはオリヴィア自身のリアル失恋が反映されており、その事情がファンの間にも共有されていたという疑似おともだち感覚も後押しをしたものと思います。ここにSNS、とりわけティック・トックが絡んでの盛り上がりです。

 ゴシップ的な事情にあふれているわけですけれども、このアルバムは実際に素晴らしいと思います。テイラー・スウィフトが「自分の子ども」と呼んで後押しをしたのも当然のことと思いました。テイラーの切り開いた道を堂々と歩むオリヴィアの姿がまぶしいです。

 アルバム・タイトルの「サワー」は通常「酸っぱい」と訳されますけれども、味覚のことを言っているわけではなく、感情ないし気持ちの形容ですから、日本語のニュアンスでいえば「苦い」の方があたっています。苦い気持ちをめいっぱい表現したアルバムです。

 曲名を並べるだけでも「ブルータル」、「トレイター」、「イナフ・フォー・ユー」、「ジェラシー・ジェラシー」など剣呑な言葉が目を惹きます。さらに「ハピアー」と明るいタイトルでも、歌詞の内容は失恋相手に幸せになるなと言っているようなものですから、徹底しています。

 ブックレットにはびっしりとオリヴィアの手書きで歌詞がつづられています。オリヴィア自身の写真も満載ですけれども、ポートレート風のものは一つもありません。ルッキズムにはまったく加担しておらず、徹頭徹尾、サワーな感情を表現しています。

 彼女のボーカルが凄いです。英語を一言も解しない人であっても、オリヴィアの歌を聴けば歌詞の内容を言い当てることができるのではないかと思うほど、表現力が卓越しています。歌そのものと完全に一体化しています。凄味があります。

 サウンド面でオリヴィアを支えているのはプロデューサーのダン・ナイグロです。ダンもまだこの時には30代で、プロデューサーとしてはシンガーソングライター、コナン・グレイで成功を収めて上り調子の時期にあたります。奇を衒わない実に手堅い音作りです。

 若い人々が夢中になるのもよく分かります。サウンドから疎外されることもなく、オリヴィアの透明感のある歌声がごくごく素直に胸に染み込んできます。とことんリアルで生々しい。実に端倪すべからざる才能といえるのではないでしょうか。

 「ドライバーズ・ライセンス」は全米チャート初登場1位から8週連続その座を守るという新記録を達成しています。アルバムも米国のみならず多くの国で1位、グラミー賞にも輝き、無敵状態です。米国の特に女性歌手の活躍には目を見張るものがあります。凄いですね。

Sour / Olivia Rodrigo (2021 Geffen)



Songs:
01. Brutal
02. Traitor
03. Drivers License
04. 1 Step Forward, 3 Steps Back
05. Déjà Vu
06. Good 4 U
07. Enough For You
08. Happier
09. Jealousy, Jealousy
10. Favorite Crime
11. Hope Ur OK

Personnel:
Olivia Rodrigo : vocal, piano, guitar
***
Daniel Nigro : guitar, drum programming, synthesizer, piano, organ, bass, percussion, chorus
Erick Serna : bass, guitar
Ryan Linvill : piano, bass, synthesizer, sax, programming
Paul Cartwright : viloin, viola
Jam City : organ, guitar, drum programming, synthesizer
Alexander 23 : guitar, bass, drum programming, chorus
Kathleen : chorus
Sterling Laws : drums
Sam Stewart : guitar