エコー&ザ・バニーメン初のセルフ・タイトル・アルバムです。デビュー作の自己紹介代わりを除けば、セルフ・タイトルは自信作と解釈されるところですが、本作品はむしろビートルズの「ホワイト・アルバム」のように他にタイトルのつけようがなかったからではないでしょうか。

 本作品については、メンバー全員が後で悪く言っています。さらにボーカルのイアン・マッカロク一人がスター扱いされたことを他のメンバーは快く思っていなかったようですし、バンドの状況は大変よろしくなく、何となく本作品にはちぐはぐな雰囲気が漂います。

 前作発表の後、マネージャーのビル・ドラモンドはバンドをしばらく休ませることにしました。その間はメンバーにとって充電期間となるはずでしたけれども、そういう雰囲気ではなかったようで、結局、ドラモンド自身がバンドとたもとを分かつことになりました。

 さらに、ドラムのピート・デ・フリータスは脱退を宣言、ピートの代わりのドラマーが加入しますが、これはうまくいかず、結局、ピートが出戻ることになります。しかし、ピートの精神状態は芳しくなく、マッカロクの酒浸りもあって、問題を抱えたまま、アルバムが制作されました。

 プロデューサーにはローリー・レイサムが起用されました。彼の関わった作品を並べると不思議な感じがします。スクイーズ、ストラングラーズと来るところまでは理解できますが、スラップ・ハッピーやモンティー・パイソンが並ぶと俄然面白くなります。

 そんな布陣で制作された本作品では、前作のストリングスに代わって、キーボードが目立つアルバムになりました。しかし、レイサムの解釈するバンドの魅力は、ザ・スミスなどが活躍していた時代状況を反映してか、とても素直なギター・バンドのそれでした。

 キーボードは目立つものの、基本的にはニュー・ウェイヴ時代のハイプとも呼べる楽曲制作ではなく、よく出来た曲を比較的シンプルに演奏しています。ボーカルも素直ですし、ウィル・サージェントのギターもストレート、エコーの森もなく、耳を奪うバイオリンもありません。

 ドラモンドのハイプが無くなって、素の自分たちをさらした作品だと思うのですが、メンバー全員がこのミックスを嫌っていますし、制作陣は時間をかけて丁寧に録音後の作業を行っているという事実を前にすると、これはこれで作り込まれているのかもしれません。

 しかし、過去のエコー&ザ・バニーメンを引きずっている人には受け入れがたいアルバムかもしれません。彼らの作品はどれも多少は前作からのイメージを裏切っているのですが、本作品は格別です。メンバーもなんかうまくいかないと思いながら制作している感じがします。

 とはいえ、聴く側がそういう心持ちの時にこのアルバムを聴くと、共振してしまう気がします。そんな時には1980年代後半の髪型をしたメンバーを写したアントン・コービンの写真ジャケットが心に刺さります。密かに本作品を愛しているファンも多いのではないでしょうか。

 英国では前作同様4位となり、米国でも51位とこれまでの最高位を記録します。マネジメントは米国ツアーを続けて手ごたえを感じていたようですし、もう少し頑張っていればもっとヒットしたかもしれないのに残念です。当時の米国カレッジ・サーキットで売れそうな音ですし。

*2013年11月11日の記事を書き直しました。

Echo & the Bunnymen / Echo & the Bunnymen (1987 Korova)



Songs:
01. The Game
02. Over You
03. Bedbugs And Ballyhoo
04. All In Your Mind
05. Bombers Bay
06. Lips Like Sugar
07. Lost And Found
08. New Direction
09. Blue Blue Ocean
10. Satellite
11. All My Life

Personnel:
Ian McCulloch : vocal, guitar, piano
Will Sergeant : guitar
Les Pattinson : bass
Pete de Freitas : drums
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Henry Priestman : keyboards
Jake Brockman : keyboards
Ray Manzarek : keyboards
Stephen Morris : drums