ジャケットは美女と野獣の逆バージョンだそうです。セント・ヴィンセントことアニー・クラークの顔は絶妙に加工されています。これはCGではなくて、人工装具を使った実写版です。この加工具合が何ともいえません。触れてはいけないのかなと一瞬思ってしまいました。

 本作品はデヴィッド・バーンとセント・ヴィンセントのコラボレーション・アルバムです。タイトルは「ラヴ・ディス・ジャイアント」で、これはアメリカの国民的詩人であるウォルト・ホイットマンの詩から引用されたものです。バーンらしいチョイスです。

 バーンはセント・ヴィンセントのコンサートをよく見に行っていたそうですが、二人が正式に引き合わされたのは2009年のことです。少し後にビョークとダーティー・プロジェクターズのコラボに遭遇した二人は周囲から何か一緒にやることを勧められました。

 そこからこのコラボレーションが始まります。とりあえず、バーンはセント・ヴィンセントを「ヒア・ライズ・ラヴ」プロジェクトに招いて一曲歌ってもらっています。とはいえ、正直なところ、どのような共同作業をするのか特にあてもなかった模様です。

 そこにセント・ヴィンセントが大きなブラス・バンドとの共演を念頭に曲を書くというブリリアントなアイデアを思いつきます。バーンもこのアイデアを大変に気に入り、そこからこのコラボが本格的に始動しました。バーンの方からではないところが少し驚きでした。

 演奏がブラス・バンドとなれば、通常のコンサート・ホール以外の場所でも問題なくステージとすることができます。そのことが特にバーンを動かした様子です。確かに音響機器すら必要ない自給自足がブラス・バンドの持ち味です。ストリングスよりも汎用性が高い。

 忙しい二人ですから、一気呵成というわけにはいかず、少しずつ曲が出来ていきます。それを実装するのがまた大変です。必ずしも知り尽くしているわけではないブラス・バンドによるサウンドを試しながらサウンドを作っていきますから時間もかかる。

 結局二人の邂逅から3年を経て本作品が完成しました。ドラム・キットやベース・ギターも一部使われていますが、基本的にはブラス・バンドとプログラミングで出来ています。トランペットとフレンチ・ホルン、トロンボーン、低音域はチューバやユーフォニウムと金管中心です。

 ここにサックスやクラリネットを加えて全体のサウンドが出来上がり、バーンとセント・ヴィンセントがボーカルとギターを担当します。ブラス・バンドのサウンドは本当に素晴らしいです。ファンクもバラードも何でも色彩豊かにニュアンスに富んだ演奏が繰り広げられます。

 ブラス奏者は固定されてはおらず、多くのミュージシャンが参加しています。私としては一部アンティバラスのマーティン・ペルナ他が参加しているのが嬉しいです。バーンとセント・ヴィンセントのボーカルもちょうどよい塩梅で割り振られており、申し分ありません。

 本作品のライヴも行われており、バンドが整列している写真を見るだけでもかっこよさに震えがきます。大傑作「アメリカン・ユートピア」に自然につながっていくように思います。本当に聴いていると豊かな気持ちにさせてくれるアルバムです。ブラス・バンド万歳ですね。

Love This Giant / David Byrne & St. Vincent (2012 4AD)



Songs:
01. Who
02. Weekend In The Dust
03. Dinner For Two
04. Ice Age
05. I Am An Ape
06. The Forest Awakes
07. I Should Watch T.V.
08. Lazarus
09. Optimist
10. Lightning
11. The One Who Broke Your Heart
12. Outside Of Space And Time

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, percussion programming, omnichord
Annie Clark : vocal, guitar, synth bass, piano
***
John Congleton : drum programming
Paul Frazier : bass
Anthony LaMarca : drums
Mauro Refosco : percussion
Jack Bashkow, Tom Timko, Steve Elson, Lenny Pickett, Alex Foster, Stan Harrison, Ron Blake, Bob Magnuson, Chochema Gastelum, Stuart Bogle, Ian Hendrickson-Smith, Martin Perna : sax
Gareth Flowers, Josh Frank, Mike Gurfield, Kelly Pratt, Dominic Derasse, Earl Gardner, Jonathan Powell, Ravi Best, David Guy Jordan McLean : trumpet
Chris Komer, Jacquelyn Adams, Eric Davis, R.J. Kelley, Lawrence Di Bello, Patrick Milando, Rachel Drehmann : French horn
Evan Smith, Jack Bashkow, Tom Timko, Steve Elson : clarinet
Brian Mahany, Jeff Caswell, Kenneth Finn, Mike Seltzer, William Lang, Steve Turre, Ryan Keberle, Ozzie Melendez, Aaron Johnson, Michael Williams : trombone
Kenneth Finn, Tom Hutchinson : euphonium
Marcu Rojas, Kyle Turner, Randy Andos, Bob Stewart : tuba