とにかく素晴らしいジャケットでした。マンチェスターに負けないリバプールの意気込みを感じます。LPサイズだと圧巻です。このジャケットを眺めながら、大きな音で聴いたものです。エコー&ザ・バニーメンのセカンド・アルバム「ヘヴン・アップ・ヒアー」です。

 勢いのあるデビュー作で成功への足がかりをつかんだエコー&ザ・バニーメンは満を持して本作品を発表しました。「寸分の隙もない緊張感が漲る『エコー&ザ・バニーメン』待望のセカンド・アルバム!!」というわけです。確かに日本でも期待は高かったです。

 この作品はバニーメンの思春期の傑作であると思います。彼らは次のアルバムでまた一回り大きくなりますから、本作品は彼らが大人になる前の作品という風情があります。思春期と申し上げたのはそのせいでもありますが、サウンドも思春期っぽいです。

 手足だけがやたらと長い思春期の子どもたちのように、どこかバランスが崩れている気がします。前作よりはサウンドに工夫が凝らされていて、自分たちが本当にやりたい音楽はこれだ、と気合が入っているのですが、やや気持ちが先走りしている感じも受けます。

 気持ちが先走ると自己陶酔感が強く出てくることになります。本人だけがとにかく深刻。しかし、そここそが思春期の魅力です。同時代の若者だった頃には大いに共振したものですから、老年を迎えて聴くと少し気恥ずかしいです。その意味ではとても愛おしいです。

 前作に比べ、より耽美的でダークかつサイケデリックになりました。当時の言葉ではありませんが、ネオ・サイケです。時にジョイ・ディヴィジョンの名作「クローサー」に比肩されたりもしました。共通項はヴェルヴェット・アンダーグラウンドでしょうか。

 ボーカルのイアン・マッカロクは、このアルバム制作時には「ずっとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ホワット・ゴーズ・オン』が頭の中で鳴っていた」と語っています。サウンド面ではヴェルヴェッツの影響が強いようです。ドアーズよりもヴェルヴェッツです。

 「淡い光の中に透明感あふれる木霊が響き渡る」と帯の煽り文句がいい味を出しています。「気高いヴォーカル、シンプルなリズム・セクション、陰影に富んだメロディの絶妙な融合によりネオ・サイケデリアの境地に達したクールで繊細な問題作」なんです。

 何かそういうことを書いてみたくなるアルバムです。冷たくて、暗くて、湿ったサウンド、薄暮の似合う音楽、陰影礼賛したくなる音楽です。この後、彼らはさまざまな魅力を見せてくれることになりますが、後の世への影響ということでは本作品が一番ではないでしょうか。

 私は本作品では特にA面が気に入って、そこばかり聴いていました。「ショウ・オブ・ストレングス」から最後の「プロミス」まで、まるで一続きのエコバニ劇場でした。一方、人気の高い「ジンボ」の改作「オール・マイ・カラーズ」がB面なので実はこちらも外せません。要するに傑作。

 この頃、エコー&ザ・バニーメンのライバルとされていたのはU2でした。今から振り返るとまるで意味のない比較ですが、私も当時は気になっていました。あれよあれよと世界的バンドになったU2に比べると、英国ローカルを貫いたエコバニを愛おしく感じたものでした。

*2013年11月4日の記事を書き直しました。

Heaven Up Here / Echo & the Bunnymen (1981 Korova)



Songs:
01. Show Of Strength
02. With A Hip
03. Over The Wall
04. It Was A Pleasure
05. A Promise
06. Heaven Up Here
07. The Disease
08. All My Colours
09. No Dark Things
10. Turquoise Days
11. All I Want
(bonus)
12. Broke My Neck (long version)
13. Show Of Strength (live)
14. The Disease (live)
15. All I Want (live)
16. Zimbo (live)

Personnel:
Will Sergeant : guitar
Ian McCulloch : vocal, guitar
Les Pattinson : bass
Peter de Freitas : drums
***
Leslie Penny : woodwind